生保業界編

保険金の不払いなど、昨年来の相次ぐ不祥事で信頼を落としたかに見える生保業界。だが、2006年3月期は、微増ながらプラス成長。その理由は医療や介護など、第3分野保険での伸びが大きい。2007年から、郵政や銀行も参入する生保業界。今の業界MAPとはまったく別のものに変化することは必至だ(取材・文/清水 泰)

業界マップ 生保業界編

業界動向

営業至上主義から「運用」と「長期リスク管理」重視へ

深尾 光洋氏

Profile
社団法人 日本経済研究センター理事長
慶應義塾大学商学部教授
深尾 光洋氏
(ふかお・みつひろ)

1974年に京都大学を卒業後、日本銀行に入行。調査統計局参事などを経て、1997年より慶應義塾大学商学部教授に就任。2006年より日本経済センター理事長を兼任。1981年にミシガン大学博士号(経済学)を取得。専門は国際金融論、金融論、コーポレート・ガバナンス。金融審議会専門委員も務める

 保険料収入の減少が続いてきた生命保険各社だが、ここにきてようやく回復基調にある。主要生保12社の2006年3月期決算では、保険料収入(一般企業の売上高にあたる)は0.3%とわずかながら8年ぶりの増収に転じた。保険事業の儲けを示す基礎利益も8社が増益を確保している。企業業績の回復で株価が上昇したうえ、保有株式の配当金収入などが増え、運用利回りが予定利率を下回ることで発生する「逆ざや」損失が大幅に減少した。さらに個人年金保険や医療保険の販売が好調で、主力商品である死亡保険の伸び悩みをカバーした。

 「生保業界におけるバブル崩壊以降の業績悪化は、株価下落が最大の要因です。銀行とは違い、大半の生保では不良債権が少なかったところに中国特需などによる企業業績の回復を受けて株価が上昇したため、業績が回復しています。しかし中・長期的に抱えるリスクを考えると、かならずしも安泰とはいえません」と、日本経済研究センター理事長の深尾光洋氏は語る。

 一方、子会社などを通じて生保分野に進出している損保業界は、自然災害による支払いなどが少なく、主要9社の2006年3月期決算での保険料収入は、前年度比0.7%増というかろうじての増収。火災、傷害、新種の医療保険などの伸びが、自動車保険の減収分を補う状態が続いている。

 「大半の損保商品は1年更新。生保のように逆ざやは発生しないので、危機的状況にあったわけではありません。ただ、今後は生保と同様、中・長期的なリスクを抱えることになるでしょう」

 生保業界の経営課題は、保険料収入や収益の拡大のみを重視した業界各社の営業姿勢である。昨年から今年にかけて相次いで発覚した業界各社の保険金不払い問題は、その最たるものといえる。

 「国内生保は代々、営業職員を管理する営業畑出身者がトップに就いてきました。しかし、短期間で入れ替わる営業職員が人海戦術で新規契約数・保険料収入を増やしていくビジネスモデルはコストが高いうえ職場への立ち入りが難しくなってきているため限界でしょう。保険料収入が今後、大きく伸びるとは考えにくいので、将来の支払いリスクに備えた資産運用部門を強化する必要があると思います」

 保険商品でも販売好調なのが第3分野の医療・介護保険、年金保険だ。しかし、深尾氏は前述したとおり、「中・長期的な支払いリスクはむしろ高まる可能性が高い」と強調する。

 「外資系が先行する第3分野の保険は、大半が長期固定の保険料を設定しているためリスク管理が難しい商品です。加入者が高齢化し、しかも長寿となれば、年金、医療、介護保険の潜在的な支払いリスクが高まります。また、ガン保険などは、診断内容をめぐるクレームが増えるかもしれません。数十年単位のリスクまで管理できる社内体制づくりが急務といえます」

 当然のことながら、リスクはチャンスでもある。業界再編による規模の追求のあとには、運用とリスク管理に優れた生・損保会社が顧客に選ばれることになる。例えば、顧客の老後資金リスクの解消に役立つものとして、リバースモーゲージ(※1)を活用した終身年金保険や不動産・資産の売買、相続と絡めた商品が重要となるだろう。業界全体として、金融・不動産知識が豊富なコンサルティング営業のプロ、資産運用のプロなどが、市場価値の高い人材になる可能性は高い。

 ※1…逆抵当融資。持ち家などの居住用資産を担保に、金融機関や自治体から定期的に生活資金として融資を受け、死亡時に担保物件を処分して一括返済する仕組み

求められる人物像

 人海戦術に頼った営業至上主義のビジネスモデルは限界にきています。しかも、生・損保業界では、高齢化の進展によって中・長期の支払いリスクが高まる中、保険料収入の大きな伸びは期待できません。そこで資産運用が重要になるのですが、これまでないがしろにしてきたため、運用のプロが絶対的に不足しています。個人向けの金融コンサルティングができる営業職とともに、運用のプロ人材が業界全体で必要とされています。また、年金の重要性が高まるに従って、中・長期の支払いリスク管理ができるアクチュアリー(※2)は保険会社だけでなく監査法人などでも不足している。理数系に強い人材のニーズが高まっていくでしょう。

※2…保険や年金、金融などに関わる数理業務のプロフェッショナル

 

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