英語力アップの“特効薬”は存在するのか?(1/2)

世の常として、乗り越えなければならないハードルが高ければ高いほど“特効薬”が登場するものだ。これは英語学習も同じ。留学、英語耳……こうした方法は、果たして本当に英語学習の特効薬となるのだろうか?

取材・文 / 中村京介

安易に留学するビジネスマンが急増中

「1年以上も英語圏に住むのだったら、帰国するころには英語もペラペラだね」――五十嵐氏は、留学のため海外渡航する際、会社の同僚にこう言われた。当時は本人も「外国に行けば、自然に話せるようになるだろうと安易に考えていた」という。

しかし、現実はそう甘くはなかった……。

疑問4 留学すれば自然に英語が話せるようになる?

英語の必要性は感じていても、タフな仕事をこなしながら、継続して勉強を続けるのは相当難しい。そこで、「仕事を辞めるのを機に、半年位留学して英語を身につけてこよう」と、安易に留学する人が結構いるものだ。特に20代半ば前後の若い人にはこの傾向が強い。

一方、受け入れ側も心得たもので、英語圏の大学や語学学校は、3カ月から半年の短期語学留学プログラムを多数用意している。しかし、「日本でロクに英語を勉強せずにいきなり留学しても、ハッキリ言ってお金の無駄遣い」と篠崎氏は警告する。

「私もMBA入学前、3カ月間ほど大学付属の語学学校に通っていたことがありますが、英語の話し方を手取り足取り教えてくれると思ったら大間違いです。英語学校の授業は、初心者のクラスでも、むしろアウトプット中心に進みます。授業が始まってすぐにプレゼンテーションをさせられるし、英文も大量に書かされる。日本である程度英語を勉強していかないと、3カ月間、何が何だか分からないうちに終わってしまいます。実際、1年間語学留学していたのにTOEFLのスコアが伸びず、日常会話すらまともに話せない人をたくさん見ましたね」(篠崎氏)

この点に関しては、五十嵐氏も全く同意見を持っている。

「留学したり英語圏に住んだりすれば自然に英語が話せるようになるというのは、完全にウソです。確かに、英語圏に住めば周りにはイングリッシュ・スピーカーはたくさんいますから、英語を話すチャンスはいくらでもあります。しかし、英語の基礎ができていない人がいきなりイングリッシュ・スピーカーと会話しても、『何も理解できない、伝えられない』で終わるパターンが多いですね」(五十嵐氏)

留学は、野球に例えるなら、「練習試合」の場と言っていい。練習試合の相手、すなわち英語を話す人はたくさんいる。しかし、バットの振り方や、ボールの捕球の仕方まで懇切丁寧に教えてくれる人は誰もいない。これは最低限、留学前に日本でやっておくべきことなのだ。本当に英語がうまくなりたいと思えば、こうした自助努力は留学してからも続ける必要がある。

「語学留学中は、授業が終わると、毎日自分の部屋で日本から持ってきた文法のテキストや単語集を読んだり、英語のCDを聞いたりしていました。新しい表現や単語を覚えた時は、翌日友人や先生に使いました。地道な作業ですが、意外と記憶にも残りやすいですからね」(篠崎氏)

「私の周りで英語ができる人は、皆それなりの努力をしていました。例えば、MBA留学に来ていた日本人の中で最も英語がうまかった女性は、一度覚えた単語を忘れないようにするため、留学先でもTOEFL用の単語集を暇な時に繰り返していました。また、韓国人の友人は単語ノートを自分で作って、知らない単語が出てくるとすぐ書き込んでいました。私も、時間がある時には、日本から持ってきたボキャブラリーのテキストに目を通したり、英語のCDを聞いたりしていましたね」(五十嵐氏)

もちろん、長年英語圏に住んでいれば、基礎がなくても、ある程度英語が聞けたり話せたりするようになることは全くのウソではない。しかし、それには最低でも5年、あるいはそれ以上の時間が必要になるだろう。しかも、その長い年月の間、誰もが「生活」という現実的なニーズに迫られながら、英語表現や文法を1つひとつ覚えていくというプロセスが存在することを忘れてはならない。逆に言うと、そういう努力をしない人、できない人は、いつまでたっても英語を使えないということになる。

「例えば現在完了形を正しく使えなければ、『たった今着いた』というような簡単なことでさえ表現できません。また、関係代名詞や関係副詞を知らなければ、ごく短い途切れ途切れの文章しか作れないし、仮定法が分からなければジョークさえ言えません。例えば、『もし俺が金持ちだったら、もっとぜいたくするよ』という表現は、「If I were a rich man, I would live in luxury.」というように、if説で過去形、主節で助動詞の過去形を使います。このルールを知らなければ、自分の気持ちを表現することはできません。ネイティブは、こういう文法事項を“音”から覚えます。だから、文法をあえて勉強する必要はないのです。しかし、これには気の遠くなるような膨大な時間が必要なため、外国人には無理な話。ですから、英語をきちんと話すようになりたければ、文法の勉強は避けて通れません」(五十嵐氏)

米国のメジャーリーグでは多くの日本人が活躍しているが、彼らのうち一体何人が英語をきちんと使いこなせるのだろうか?もし本当に英語力に自信があるのなら、サッカー日本代表の中田英寿選手がイタリア語で現地の記者会見に応じるように、英語での記者会見に応じるはずだ。

しかし、現状では、渡米してもう長い年月がたつ選手でさえ、台本なしに生の英語を話しているのをあまり見たことがない。一方、日本にいる時からしっかり英語を勉強していたというシアトル・マリナーズの長谷川滋利投手は、渡米当初から、英語で記者会見を行っている。この違いは、留学前に勉強することの重要性と、単に英語圏に住んでいても英語を話せるようにならないということを証明している。

五十嵐徹夫氏
(仮名・38歳)
現在、ITベンチャーで役員を務める。30代後半で欧州の有名大学のMBAを取得。35歳をすぎてから英語学習を始めた経験から、「英語が苦手な人の立場に立って、勉強方法のアドバイスをしたい」と話す
篠崎亮氏
(仮名・34歳)
友人と設立したITベンチャーでは社内システムを担当。現在は大手ITベンチャーの事業企画部シニアマネジャーを務める。かつて国内メーカーで子会社事業の再生を担当した経験、さらに米国へのMBA留学経験から、ITのみならずマネジメント知識も豊富という貴重な人材

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