プレゼン、面接、会議……強いキャリアを創るためのホンネ対談 おちまさとプロデュース「偉人伝心」
〜あなたのシゴトに効く!プロフェッショナル仕事術〜

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日本の映画界は才能に見合う対価を払ってこなかった

まず対象を徹底的に分析し、いったんそれを忘れる。そして自分の中に降りてくるものを信じる。ものを作るときは、たいていそうしている。 (一瀬隆重)
おち

アメリカ人ってドライですよね。

一瀬

でも逆に、儲かればなんでもいいんです。ベクトルが一本化されているから楽なんですよ。日本で映画を作っていて困るのは、テーマが“儲かること”じゃなくて、“関係者の社内でのポジションがあやうくならないこと”とかになっている(笑)。ベクトルが人によって全然違うんで、そこが困るんですよ。

おち

『リング』はどういう契約だったんですか。

一瀬

僕はかなり早い時期から日本でもインセンティブを強硬に主張していて、超嫌われまくりだった(笑)。いろんな会社から「もうあなたとは仕事しない」なんて言われてね。それもアメリカに行ったきっかけのひとつなんです。でもそういう払い方を嫌う人たちって、実は製作費を最初にふっかけられてたくさん抜かれちゃっているんですよ。こっちが言っているのは、「最小限のおカネさえ出してくれればいいから、儲かったらちゃんとくれ」という話なんだけど、なかなかそれが理解されない。ゲームとか新しい産業はともかく、映画みたいな古い業界はそういう意識がなかった。『リング』くらいからは、ちゃんと成功報酬契約でやれましたけど。

おち

なるほど。僕も、「成功したぶんだけお金を下さい」っていうと「はっきり言いますね」って言われますよ。そりゃ言いますよ、奥ゆかしさだけが美徳じゃないんだから。

一瀬

でも『リング』は自分がハンドリングして製作したわけじゃなかったから、アメリカでリメイクされて大当たりしても、こちらがもらえるものはたかが知れている。それじゃつまらないなと思って、『呪怨』ではたとえ低予算でも、自分たちがすべてハンドリングしようと思ったんです。

おち

そうか、『呪怨』からなんですね。これは当たったでしょう。

一瀬

リメイク権を売りに行った時は『リング』ほど知名度がなかったんですが、うちの弁護士が賢くて、「リメイク権料は安くていいから純利益の1/3をもらう」という契約を結んだんですよ。向こうもまさか当たるとは思っていなかったんでしょうね。清水崇(※11)もそれであっさり家を建てました(笑)。『呪怨』を最初にVシネマで撮ったときの彼のギャラなんて何十万円かですよ。それが『The Grudge 2』(邦題:『呪怨 パンデミック』)のときは数億ですから。やっぱり、アメリカって才能にちゃんとおカネを払うんですよ。まあ、だめになったら冷たいけど、それはしかたない。

おち

しかもそれを日本で撮ったんですよね。それもはじめてですか。

一瀬

あれは僕じゃなくてサム・ライミ(※12)がプロデューサーで、彼が「『呪怨』の怖さは日本の家の狭さが要因だから、日本で撮ったほうがいい」と言って。

おち

それで、アメリカの俳優を日本に呼んで、日本の監督が撮った。すごいですね。普通はアウェイでやらなければいけないことを、ホームでやりとげたわけですから。でもなぜ、ジャパニーズホラーは当たったんでしょうね。

一瀬

単に珍しかったからだと思いますよ。今まで彼らが触れたことがないものだった。でも珍しいということは飽きるということですから、もう飽きが来てると思います。

おち

次は日本のどんなものがうけそうでしょうか。

一瀬

やっぱりコミックへの支持がすごいですからね。その映画化はすでにいろいろ始まってますよ。あとは、日本の小説の映画化も始まっていて、いくつか関わってます。

おち

本広さんは、『踊る大捜査線』は海外でまったくわかってもらえないって言ってました。

一瀬

日本であれだけヒットした映画ですから、興味を持ったアメリカ人が何人か見ていて、僕も感想を聞いたんだけど、「あれのどこが面白いんだ」ってえんえん聞かれました。僕は『踊る』のファンなので一生懸命説明するんだけど、彼らが理解できないのもわかる。あの作品の魅力は、すごくドメスティックなものなのですから。日本で当たるためには海外で当たらないものがよかったりするわけで、そのへんが特に、今の日本映画のマーケットの特殊なところですね。

おち

現在手がけられているのは何本くらいですか?

一瀬

いつも30くらいの企画は動いていて、いろんなステージにある。まだブレスト段階のものもあれば、2〜3年くらい脚本を練っているものもあるし、キャスティングや撮影の準備に入っているものもある。そこから成立するのは半分かそこらです。

おち

今はどういう生活をされているんですか?

一瀬

朝はだいたい6時起きです。アメリカから来たメールを読んだり電話会議したり。10時くらいにそれが一段落すると今度は日本からメールが来だすので、午前中はだいたいそうやってメールの処理なんかをしてますね。午後はだいたいミーティング。編集とか撮影のない日は19時以降は働かないって決めてますんで、そのあとは友達や仲のいい仕事関係者と食事に行ったりしてます。でも仕事上の会食とかはほとんどしないですね。

※11 映画監督。『呪怨』シリーズは最初のVシネマ版からアメリカ版の2作目まですべて監督を務めた。他の代表作は『富江 re-birth』『輪廻』など

※12 アメリカの映画監督・プロデューサー・脚本家。『スパイダーマン』シリーズ(2002〜2007)の監督として名声を確立した。オールドファンには『死霊のはらわた』(1983)をはじめとしたカルトホラー映画の監督としてもおなじみ

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