海外ではたらく!はたらくひとinterview

第1回 フリーランスではたらく日本人デザイナー

失業率が9%を超え、外国人の労働ビザ取得が難しいと言われているフランス。ただ、実力さえあれば、国籍や語学力に関係なくビザを取得することができる。今回はパリでフリーのグラフィック・デザイナーとしてフランス企業と契約を交わす上岡さんにお話を伺った。

フランスに来たきっかけは何ですか?

24才で初めて母と二人で出かけた海外旅行先がフランスでした。特にパリが気に入って、その後じゃ年末年始の休みに有給休暇をつけて、友人と、あるいは一人で6回ほどパリや南仏を旅行しました。旅行中に使えたら便利だな、程度の気持ちでフランス語の勉強を始めたのですが、住んでみたいという気持ちが強くなって。留学するつもりでしたが、フランスでもワーキング・ホリデーが始まったので応募したら受かったんです。

ワーホリ・ビザを使ってデザインの仕事をされたのですか?

いえ、最初は地方都市に住んでフランス語の勉強に集中しました。その後、パリに来たのですが、デザインの仕事はなかなか見つからず、日本レストランで働きながら、映画を見たり、展覧会に通ったり。それからボランティアが発行している日本語情報誌があったので、そこでデザインのお手伝いをしました。

ワーホリの期間が終了してその後は留学されたのですよね? 学校生活は?

最初はソルボンヌ大学の語学コースに登録し、それからパリ第8大学の応用芸術学科に学部編入しました。パリ第8大学の授業は本当に楽しかった。先生方が現役のアーティストで、生徒に対してフレンドリーです。また、外国人生徒が多いのですが、祖国で美大を卒業していたり、プロのアーティストとして働いた経験があったり。先生も生徒もみんな意見を言い合って、刺激的でしたね。また、私はソルボンヌ時代から学生労働ビザが取得できたので、フランスのデザイン会社でパンフレットを作る仕事をしました。

フリーランス・ビザを取得したきっかけは?

働いていたデザイン会社が、正社員として働けるように給与所得者ビザを申請してあげましょう、と言ってくれたのです。でも、一つの会社に身を捧げるのはイヤかな、と。日本人らしくない発想ですが。それにパンフレットだけではなく、パッケージ、雑誌、広告など色々なことを手がけたかったのです。それで、フリーランス・ビザを申請したら、問題なく許可が降りました。

フリーランス・ビザは給与取得者ビザよりも取得しやすい。ただ、自分で健康保険、国民年金などの支払いをしなければならない。給与取得者の場合は会社が一定額を負担するが、その分も自己負担なので、さらに所得税が引かれると、手取り額は全収入の60%程度になると言われる。また、企業が労働ビザのない外国人を雇用する場合には手続きが複雑な上に、必ず管理職待遇で採用することが義務付けられているため、優秀な人材でない限り、企業は外国人を正社員雇用することはない。実際、給与取得者ビザが取れず、フリーランス・ビザを取得したという日本人も多い。しかし、上岡さんは会社の提案を辞退して、フリーランスにこだわったのである。

現在の仕事内容は? またこの仕事はどのように見つけたのですか?

「Capsule cosmique」という子ども向けマンガ雑誌のレイアウトをしています。以前、働いていたデザイン会社の元同僚が「知人のアートディレクターがマンガ雑誌のレイアウターを探しているから会ってみない?」と。新しい雑誌ですが、発行元がしっかりしていたし、元同僚がそのアートディレクターは信頼できる人だから、と保証してくれました。編集スタッフも私と年齢が近くて、和気藹々としていながら、プロフェッショナルな雰囲気もあって、すぐに契約を交わしました。

フリーのメリットとデメリットは何でしょう?

メリットは自分で仕事を選べるという点です。デメリットといえば、以前、1度契約した会社が約束のギャラをなかなか支払ってくれず、何度も催促のメールを書いたことがあっりました。それから、「いくらでやってくれますか?」と尋ねられて、相場が分からず困ったり。また、税金申告などの手続きを自分でやらなければならないのが大変ですね。

働く上で感じる日仏の違いは何ですか?

仕事の内容自体には大きな違いはありません。ただ、フランス人はルーズで、仕事より私生活を優先する人が多い。先日も、今日中にこれを仕上げなければという時に、スタッフの一人が「友人と映画に行く約束してるから、あとはよろしく」と仕事を放り出して帰ってしまう。同僚も「仕方ないね」で終わり。きまじめな日本人ほどフランス人との仕事にストレスを感じる、と言われますね。ただ、私はマイペースなので、自分も「この日は約束があるからダメ」とはっきり言う。それで責められることはありません。

最後に今後の抱負を聞かせてください。

今、担当しているマンガ雑誌の仕事は安定収入になっているし、編集スタッフも感じがいいので、満足しています。今後はもっとクリエイティヴなことを手がけていきたいな、と。1度、フランス人のインテリア・デザイナーと組んで、新オープンの宝石店の袋や箱、看板などのコンセプテュアル・デザインをしましたが、クリエイティヴで楽しい仕事でした。それから大学は修士課程に進んだのですが、今年は仕事が忙しくて単位が取れなかったんです。あと1年かけて修士号もちゃんと取得したいですね。

インタビューを終え

フランスでは、日本人を顧客とするフランス企業や在仏日本企業に採用されて、労働ビザを取得する日本人が多い。フリーランス・ビザも日仏通訳者、翻訳者を中心に、日本人であることを武器に仕事をする人が多い。上岡さんの場合は、フランス人と同等に日本とは全く関係ないところで仕事をしている。もちろん、日本での仕事経験、パリ8大学学部卒の学歴が記載された履歴書も彼女の武器であるが、今までの仕事内容、つまり手がけた作品のファイルを見せることで契約を勝ち取っている。フランスでは特にアートの分野においては、実力さえあればフランス人と同等に勝負できるのである。

Writer Profile

Yuka Egusa

フリー・編集ライター。96年からパリ在住。ライターとして日本の雑誌やHPにパリ情報、フランス社会・文化などをテーマに寄稿。同時にパリ発・日本語情報誌『ビズ・ファミーユ』の編集・発行人を務める。著書に芝山由美のペンネームで書いたOL留学体験記『夢は待ってくれるー女32才厄年 フランスに渡る』がある。海外書き人クラブ・メンバー。

今週のはたらくひと

上岡 祐子  Yuko Ueoka

グラフィック・デザイナー(フリーランス)
1970年、愛媛県生まれ。専門学校のグラフィックデザイン科を卒業後、大阪の飲料会社に就職し、デザイン室でパッケージ、パンフレット、ポスターなどを手がける。2000年にワーキング・ホリデー・ビザで渡仏し、翌年、留学生として語学学校、パリ第8大学の応用芸術学科に在籍しながら、学生労働ビザでデザインの仕事を始める。2003年12月にフリーランス・ビザを取得。

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