転職失敗談2
海の向こうの長男
「長男」意識が強い地方に生まれ育ったKさん。結婚、転職と人生の転機が重なる度に、意識は少しずつ「家」の外へと移っていったのだが……。(→後編はこちら
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長男、家を出る
機械メーカーA社の海外工場で生産管理をするため、Kさんが海を渡ったのは1年ほど前のこと。ほかならぬKさん自身が海外勤務を前提としてA社に転職したのがきっかけです。
 転職前、Kさんはあるメーカーの生産の管理技術者として国内の地方都市に勤務していました。その地方都市はKさんの実家からもほど近く、結婚をきっかけにKさんが家を出るまで、実家からの通勤を続けていました。
 Kさんの故郷は、以前昔ながらの価値感が生きており、「長男が家を継ぐ」傾向がとりわけ強い地域。Kさんの父親も会社員だったので、継ぐべき家業というものはありませんでしたが、それでも「長男は親と同居する」という考えは根強く残っていました。Kさんは長男だったことと、何より勤務先が地元だったことから、周囲も本人も自然な選択として実家での生活を続けていたのです。
 しかし、Kさんのこうした意識も結婚を考えるようになると、少しずつ変わってゆきます。
 結婚し、子供を作るとなると実家はすこし手狭。またKさんの妻となるH子さんも別居を希望したことから、Kさんは実家を出て、新居を構えることにしました。
 しかし「長男は実家にいるべき」と信じて疑わなかったKさんの両親は寝耳に水。
 「お前の家はここなのに、長男なのに」
と大反対。Kさんも説得を続けようやく
 「ゆくゆくは同居する」
 「車で5分程度の距離にする」
 「週末は一緒に食事を取る」
などの条件付きで、なんとか新婚家庭を別に構えることが出来たのでした。
「長男教」信者
さらに結婚2年後。Kさんは2度目の決断をします。
 技術的なレベルアップのために、現在の勤務先であるA社に転職を決めたのです。しかも新しい勤務地は海外の生産ラインの拠点。海外勤務のため外国語のレッスンを重ねるなど、努力の末につかんだ結果でした。
 Kさんの内定は、妻・H子さんにとっても大きな喜びでした。赴任先に一緒についていくために、彼女も遅ればせながら外国語のレッスンをはじめるなど、Kさん宅は喜びと忙しさに沸き返っていきます。そんな喜びの中、ついうっかり忘れかけていたのです。Kさんの両親が強い「長男教」信者であったことを……。
 内定を受け、今の勤務先にも退職届を出そうかという時期。週末を選んでKさんとH子さん夫妻は、Kさんの実家を訪ね、転職と海外赴任の話を切り出しました。
 多少は驚かせる気持ちもあったでしょう。しかしKさんの両親の反応は予想を遥かにこえたものでした。
 「今の会社を辞めるのか?!」
 「海外なんてそんな危険な……何かあってからでは遅い」
 「長男のくせに……家を出てるのも大目にみてやってるのに、この上まだ海外に住むなんて!」
 「そんなにここが嫌なのか?!」
 すっかり顔色を失い、驚いたり怒ったり。Kさんの飛躍を喜ぶような余裕はみじんもありません。
 最初は言葉を尽くして説明していたKさんも、両親の頑固さに驚き最後は
 「もう決めたことだ!なんと言われても俺は行くからな!」
 と半ば絶縁するように、畳を蹴って実家を出てきてしまいました。
 こうしてKさん夫妻の海外転職は波乱含みのスタートとなったのです。

(→後編に続く)

pen2 転職・海外赴任にKさんの両親は大反対。半ば絶縁状態でKさん夫妻は赴任先へ旅立っていったのだが、地元に残した両親たちは……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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