転職失敗談2
理論派経営
勢いや体力に頼る営業から理論派営業への転換。その旗頭になった理系の新入社員Iさんは情報収集能力を駆使して独自の営業スタイルを築いていくのだが……。(→後編はこちら
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理論派営業創始者
Iさんはコンサルティング志望の営業マン。営業にしては珍しく国立大の理数系学部の出身です。実はIさんが今の企業に入社したきっかけが学生時代アルバイトにありました。
 Iさんの理論整然とした考え方に惚れ込んだ社長が、卒業を待たずに口説いて口説いて、そのまま内定を出して入社させたのです。資料請求からセミナー、面接を経て入社した他の同期とも一線を画した存在 であり、また文系の多い営業で理系出身者であるIさんの仕事ぶりは目立っていました。
 学生時代からノートパソコン、PDAなど最新のデジタル機器を揃え、
 「社のものより新しい機種ですし、必要なデータも入っていますから」
 と、会社から得意先まで持ち歩いていました。そのデジタル機器で会議の議事録を打ち込んだり、入力したデータを商談で提供したり。その姿は若さと体力と人当たりを武器にする文科系営業マンの中で異色の存在だったのです。
 Iさんを見いだした社長も、彼の個性的な仕事ぶりに
「これからは勢いで数字を取る営業から、状況を分析してノウハウを蓄積していく、いわば理論派の営業にシフトしていかねば」
 とご満悦で彼の後押しをします。
 Iさんは周囲の反応にますます気を良くします。
 入社後3か月ほどの間、新入社員は先輩社員のアシストにつき、先輩の営業手法や仕事ぶりをみっちり教わるのがこの会社のシステム。Iさんも新人のひとりとして、先輩社員の下についたのですが、すでにアルバイトでの勤務経験があり、また社長の肩入れも効いていたため、先輩の教えより自分のパターンを優先させて営業を展開していきます。
 新入社員ながらすでに「理論派営業」の創始者、家元といった雰囲気があり、先輩も指図しづらかったのです。
ハンコついて当然
ところが、入社後3か月たち、半年たってもIさんの「理論派営業」は思うように結果が出ません。
 「なんといっても、まだ新入社員だから……」
 と、周囲も見守っていたのですが、その後もIさんの「理論派営業」は伸び悩み、1年近くたったころ、先輩のパターンに習ったほかの新人たちがどんどん数字を上げていく中、とうとう営業成績最下位になってしまったのです。
 すっかりアテが外れた社長。困ったことになったと悩む営業部長。そして焦る本人……。
 ある時、営業部長が他の新人社員と食事を共にする機会があり、Iさんの仕事ぶりについて同期の視点からどう思うかと質問してみました。
 「Iは確かにデータを集めたり情報をまとめたりするのは凄く早いしうまい。けど理屈っぽいというか」
 「そう、そう。営業先のことや業種について事前に調べる力はすごいんですが、それを得意先で展開するとき『今、これはこうなっています』『次はこうなるでしょう』『ですからこれが必要なんです』『はい、これが契約書です』っていう感じの商談の進め方なんです。たしかに聞いている分には正論なんだけど、大事なものをすっ飛ばしているというか……本人はそこまで説明したら『理屈は合ってるんだから、ハンコついて当然』って顔して座ってるんです。まるで法廷ですよ。営業になってない」
 どうやらIさんは、売るための「証拠」集めに熱中し、営業を受ける側の気持ちの動きをすっかり見落としてしまっていたようです。
 営業部長は営業の基礎の基礎から、もういちどIさんに叩き込むことを決心しました。

(→後編に続く)

pen2 営業の基礎からやり直すことになったIさん。一年遅れの基礎修業は吉と出るか凶と出るか……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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