転職失敗談2
理論派経営
まるで学会の発表のような営業をくりかえし、入社後1年近くたっても成績が振るわないIさん。営業マンとして再教育されることになったのだが……。(→前編はこちら
バックナンバー
理論派VS体育会系
まず、お得意の理論派営業を徹底的にたたき落とすため、先輩の営業マンと毎日の行動を共にさせ、とにかく「同じようにやってみろ」と刷り込む作戦です。その再教育係には入社5年目のKさんが任命されました。
 1週間が経過。営業部長がKさんにIさんの途中経過を尋ねたところ
「うーん、なかなか難しいですね。彼に『まずやってみろ』は通じないんですよ」
 という答えが。Iさんは理論派だけあって、その行動にはどんな意味があって、どういう効果があるのか逐一聞かないことには動けない、聞いても自分が納得できないと議論に発展したり、またはこのやり方の方がいいと提案がはじまったり。まるで三歳児が「どうして?どうして?」と何にでも疑問を示すように、自分が納得できるまで動かないと言うのです。
 「あの分じゃ、営業先でクライアントをかなり論破してたんじゃないですか?とてもお客さまの前には出せませんよ」
 と苦笑まじりで締めくくられ、営業部長は呆然。
 Kさんは理屈よりまず足を動かし、頭を下げて数字をとる、体育会系的営業マン。Iさんとはまるで対照的ですが、そこを見込んで彼を預けたのです。しかし、予想以上に二人の溝は広がるばかり。
 営業ルームでKさんが声を荒げてIさんを叱責していた、最近二人は同行してもほとんど口も聞かない……など不穏な噂も社内を駆け巡りはじめます。
 これ以上二人を一緒にしていても、効果が出ないと判断したのか、ほどなくIさんの教育係は体育会系Kさんより、もの静かで年齢も近いHさんへと代わったのです。
内なる願望
Hさんは理科系出身ではありませんが、もの静かな提案型営業でクライアントの信頼を得ている営業マン。Iさんとは1年違いで、新規開拓率は低いものの、名指しのリピート率が高いのが特徴。彼ならIさんをうまく先導できるかもしれません。
 案の定、体育会系営業よりもIさんには合っていたようで、Iさんの疑問に納得いくまでつきあっているHさん、という構図がしばしば見られるようになります。Hさんは相手のいい分をすべて吐き出させてから、自分の意見を言うため、Iさんの議論につきあうには膨大な時間が必要。昼食・夕食と、仕事以外の時間を共にする機会が自然と多くなっていきます。
 そんな教育期間がひと月ほど過ぎ、Hさんから報告が入ってきました。
 「まだ理屈っぽいところはありますが、クライアントに議論を吹っかけない相手の話を聞く。この2点はできるようになりました」
 ひとまず、営業としての最低ラインに立たせることが出来たと、営業部長はまず安堵し、これからも何かあったらIさんにアドバイスしてやてくれと、Hさんに依頼。ところがHさんは
 「もう僕のできることはやったと思います。あとは彼次第でしょう」
 と、妙にサバけた返事が返ってきたのです。
 それもそのはず。Hさんはこの時すでに転職を決意していたのです。
 もともと勢い系が主流だったこの職場で、Hさんのような提案型の営業は今ひとつ目立たない存在。同じ営業でももう少しコンサル的な要素がある方が自分に向いているのではないかと漠然と考えていた時、議論好きなIさんの教育係になったのです。彼の営業に関する「なぜ」「どうして」に応えていくうちに、自分の希望・願望・不満が棚卸しされてしまったらしいのです。
 自分の内なる願望をハッキリ悟ったHさんは、転職のため半年後退職。
 ついでに、理論派のIさんもその後ほどなく退職しました。もっともこちらは、議論を封じられてストレスが高じたのか「もういちど大学の研究室に戻ります」という理由でした。
サクセスポイント
今回はココが問題!
潜在的な転職願望
HさんはIさんの指導を通して、はからずも自分の転職意識に気が付いた形になりましたが、転職をはっきりと意識する人も一度「なぜ転職したいのか」を考えなおすことが大切です。厳しい転職市場では、条件を譲歩することも出てきます。できること・やりたいことを把握して、なおかつ条件面で譲れないラインを明確にしておくと、たとえばハナから条件の合わない企業と交渉するようなムダを防ぎます。
これでサクセス!
意識とキャリアの棚卸し
不況が囁かれるようになってから、転職したいのにできない、という人が増えています。不況初期のころは「なんとなくこの仕事がいや」「あの会社は雰囲気がよさそう」など、自分の意識と仕事への理解が不足している人が転職に失敗する、ある意味当たり前の失敗が目立ちました。
しかし不況も末期的な現在は「これこれができるからこの仕事をしたい」と明確なビジョンをもっている人も転職に失敗することが多くなっています。確実に転職市場は厳しくなっています。自分自身を知ることがより一層必要になっています。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
バックナンバー

▲ページのトップへ