転職失敗談2
極端から極端
転職でクリエイターにとって天国ともいえる職場を得たK君。しかしその魅力は麻薬的なもので……。(→前編はこちら
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一国一城のあるじ
社内での発言力が落ち、営業部の言うままにコピーまがいの商品を作るデザイン部門。そんな現状に我慢ができず、転職活動を始めたデザイナーのK君。第一希望は
「当社は特に商品開発環境に力を注いでいます」
 と公言するB社。早速会社を訪問し、現場を見せてもらうことにしました。まず営業ルーム。ひとつの部屋の中で社員が気ぜわしそうに出入りしています。
「あまり広くないんですけど、営業は外回りが多いので、デスクも交代で使ったりしてなんとかやっています」
案内の人事の担当者はそう説明しました。次にフロアをあがって、商品開発の部門。
「ここは第一商品開発部です。主に当社のオリジナル商品の開発を担当します」
さきほどの営業ルームとはうって変わって、こちらはゆったりとして落ち付いた雰囲気。壁際に沿って各々のデスクを配置し、中央には大きな布もラクに扱える共有の作業台がどっかりと置かれ、広々としています。
さらに開発室は第二、第三と続きます。すべてが1フロアずつを使っており、さらにその上のフロアは型紙を起こすCADシステムの部屋と、材料の保管倉庫。開発関係だけで4フロアを占めていることになります。K君にとっては実にうらやましい環境です。
K君の勤務先は営業部のフロアを分割したところにあり、騒々しいことこの上ありません。サンプル制作用の布を出しっ放しにして忘れたときなど、喫煙者の多い営業ゾーンから流れたタバコの煙で布の色が変わってしまったことも。一国一城(フロア?)の主というだけでK君の理想的な職場だったのです。
天国の魔力
その後K君は面接に合格。配属先は希望していた第一開発部と、順風満帆なスタートを切ります。
実際にB社に入社してみると、開発関係者の発言力はS社と比較にならないほど強く、圧倒されるほどでした。
社長も「営業は叱咤し、開発は激励する」というスタンスで、営業社員には声を荒らげることもたびたびですが、開発部を叱ることはほとんどなく、彼等が作りたいだけ作るサンプルも、それに充てられる膨大な生地購入費もノーチェックだったりするのです。
 クリエイターにとってはまさに天国のような環境。K君はつくづく転職してよかったと、喜びを噛み締めていました。
 ところがある日、先輩デザイナーたちの会話を聞き、愕然とします。
「明日の営業会議に出るようにって言われちゃった」
「なんで?そんな会議でても数字とか予算とか全然わかんないじゃん」
「なんか、売れる商品を作るには営業を知れとか、協力しろとか言ってきてさ」
「えー!めんどくさ……アタシたち自分の作りたい服を作らせてもらえれば、売れ行きなんて関係ないよね」
「そうそう。商品にならなくても、好きなサンプル作らせてもらえればそれでいいよ」
天国のような環境ゆえに、先輩デザイナーたちは現状で思いきり立ち止まってしまっているのです。こんな商品開発を続けて大丈夫なのかとK君の胸に不安が広がります。
K君が危惧した通り、こうして開発された商品が売れ行き好調なはずがありません。大量に出た売れ残り品は、年に2度開催されるB社ファミリーセールで投げ売りされ、そこでもさらに売れ残るという情けない運命をたどっていることを知ります。
ちなみにこの職場で一番多忙を極めているのは、大手ブランドと提携し、デザイン提供を受けている第二開発室のデザイナーたち。版権元の監修が厳しいため、オリジナリティを活かせる部分は少なく、仕事としては面白味がないとデザイナーたちからは不人気な部門です。
しかし、この部署で作り出される商品がもっとも真っ当に数字を稼いでいるという事実に気付いたK君。デザイナーの本能に準じて第一開発室に残るか、ビジネスとしてのやりがいを優先させて第二開発室への配置替えを願い出るか、はたまたもっとバランスの取れた新たな職場を探すか、3つの選択肢の間で悩んでいます。
サクセスポイント
今回はココが問題!
極端から極端へ
現在の勤務先に我慢できない点があるという人ほど、そのポイントにこだわって転職活動をしがち。現状への不満だけで転職に走るのは危険です。ひとつの部分にこだわりすぎると、ほかの部分の落とし穴が見えにくくなります。
これでサクセス!
受け身の志望動機は避ける
不満があっての転職の場合、残念ながら職場を変えるだけで円満解決するケースは稀です。志望動機の説明が現在の職場批判につながり、面接での印象が悪くなることも。また「××部門に力を入れているから」「設備が揃っているから」といった、応募者が受け身の志望動機もあまり好まれません。採用側が聞きたいのは「コレコレをしたいから」という、何ができるかの具体的な提示です。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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