転職失敗談2
倍率70倍の仕事
たった一人の事務職を募集したところ、膨大な応募が殺到。唯一の合格者を選び出す仕事をまかされたSさんは、過酷な選考を開始するのだが……。(→後編はこちら
バックナンバー
倍率70倍
事務職はもともと中途採用が多い職種ではありませんが、逆に仕事を求める人が多い職種。特に最近の応募数の多さは目を見張るものもあります。
あるWEB制作会社が事務兼制作アシスタントを募集した時のことです。そう大きな職場でもなく、猛烈に仕事が忙しいわけでもなく、特別な技術も必要でなく、従ってお給料もそう高額でもなく、募集広告としてアピールできるものはそう多くありません。強いて言えば、もの作りの現場にいるため、普通の事務よりは若干面白いものを見聞きできるかも……という程度。採用担当になったSさんは、率直にそのことを書き、小さな広告を情報誌に掲載しました。
そこそこの募集なので、そこそこの人が来てくれればいい。難しい技術は必要ないので、すぐに辞めないでくれればそれでいい。そんな気持ちで応募を待っていました。ところが、反響はSさんの予想を大きく超えたのでした。
問い合わせの電話は、情報誌の発売前日から早くも鳴り響きました。電話の主は早売りの書店やコンビニで手に入れたという、熱心な転職希望者。それを皮切りに発売日には電話は鳴りっぱなしで、業務にも支障が出かねません。正直これほどの反応があると思わなかったSさんは、専用の電話番号を掲載することも、専任のスタッフをおくこともしていなかったため、現場はちょっとしたパニックに陥りました。採用計画を知らない従業員が多く、転職希望者からの問い合わせの電話に
「事務?の募集??ちょ、ちょっと待ってください」
と、あちこちの部署をたらい回しにしたり、Sさんが離席中の電話には
「××さんですか?どちらの××さんでしょう、折り返しお電話いたしますので社名をお願いします」
と問いつめてしまったりと、ドタバタの連続。
結局一週間で、たった一人の採用情報に集まった履歴書は70通にも上りました。
厳しい書類選考
Sさんとしては喜んでばかりもいられません。この70通の中から面接を行う人材を選び出さなければいけないのです。
とはいうものの、採用のプロではないSさんにとって、何を指針に人材をふるいにかければいいのかわからないのです。特別な技術が必要な仕事ではなく、強いて言えば人柄やフィーリングが重要ですが、それを判断するには実際に会ってみなければならず、思考は堂々巡り。
 社長に相談しても70通の応募があったことで
「不況のせいもあるが、うちの知名度も上がってきているのかも」
 と事実を喜ぶばかりで、実際の判断は一任され、上司に相談しても興味本位で「美人がいい」「若い子が」などと茶化されるばかりです。
 やむなくSさんは集まった履歴書から、明らかに採用条件を外しているもの(年齢など)と、基本的な書き方ができていないもの(写真が貼られていない、写真が極端に古い、二重線や修正液で修正しているなど)を除外しました。
 次に従業員の平均年齢とあまりにも離れている人、実務経験がまったく無い人、ブランクが大きい人なども外しました。これでなんとか半分になりました。
ここまでくるのに非常に厳しく履歴書をチェックしました。それこそ目を皿の様にし、応募者の不手際を探すつらい作業です。時間をかけて書いたであろう履歴書でも、些細なミスで不合格になっていく……。Sさん個人としては、この選考で落ちた人たちでも、今度の仕事は充分勤まるだろうと思っています。しかし、全体の応募数が多ければそれだけ採用レベルも上がってしまうのです。Sさんは企業人として、少しでも優秀な人材を採用せざるを得ません。
 やっと半分にした履歴書を前に、Sさんは面接日程の調整に入りました。

(→後編に続く)

pen2 30人強の相手との面接をたった一人でこなしてゆくSさん。とうとうスペシャルなたった1人が選び出されたのだが……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
バックナンバー

▲ページのトップへ