転職失敗談2
恐るべき素人人事
入社予定日を1週間後に控え、N君はまだ迷っていた。友人や先輩の説得を受け、ギリギリになって入社を考え直すのだが……。(→前編はこちら
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引き止める友人たち
入社後の給与・待遇が一切不明なA社から内定をもらったN君。長引く休職期間にこのあたりで決めたいところですが、A社の素人人事に対して不安は増すばかり。
友人や先輩などに経緯を説明し相談したところ、軒並み口をそろえて
「入社後にいいように決められてしまうかも。生活できないような給与になったらどうする」
「求人票のデータは絶対のはず。それを目安だなんて……怪しいよ」
 と、警鐘を鳴らします。N君もだんだんと入社の意思が弱くなっていくのですが、引っかかるのは
「でも、もう『お願いします』って言っちゃったんだよね……」
口頭でも入社意思を伝えてしまっているところ。N君が迷っている間も、A社からは「早く、早く」とせかされ続け、すでに入社時期まで決定されていたのです。相談を持ちかけた時点で、初出社まで1週間と迫っていました。
「こんなギリギリになって断るのも気が重いし……これを断ったら次の仕事はいつ決まるか分からないし……」
 と迷うN君でしたが、友人たちの
「入ってからヤバいと思っても遅い」
「入ってからの方が辞めるのは大変だし、辞めたら極端に短い職歴が残ることになる。その方が次に転職するとき不利になるかも」
「受けた内定でも断れるはず。多少はキツいことも言われるかもしれないけど、不安があるならやめた方がいい」
 などの言葉に勇気づけられ、A社の内定を断る決心をしたのでした。
しかし、そうなったらなったで、別の不安が頭をもたげてきます。学生の就職活動の時に耳にしたのは、受けた内定を断りにいったら、軟禁状態で帰してもらえなかった、コーヒーを頭からかけられた、などの伝説的噂。無論、学生の内定と転職の内定は違いますが、人事に関しては何をするかわからない印象のA社です。気は重くなる一方です。
損害賠償!?
内定辞退を告げるにあたり、再度訪問の上、直接顔を合わせてお詫びをするのが一番良いだろうと思うN君でしたが、どうしてもその勇気が出ません。電話もお手軽な印象があるため、結局丁寧に辞退の手紙を書くことにしました。先方は人事に関しては素人だけに、非のある行動でも自分の言葉で説明すれば分かってもらえるかもしれない……。
 投函から2日後。N君に電話が入ります。もちろん手紙を読んだA社の担当者からです。
「お手紙拝見しましたよ。困りますよ、急にこんなことを言われては……。しかも手紙なんて一方的な……」
 落ち着いてはいますが、凄みのある声で担当者は続けました。
「今までうちがあなたに割いた時間と手間を考えているのか。条件を説明しろ、書面を送れ、全部あなたの希望どおりにしてきたじゃないか」
 N君の思いの丈をつづった手紙でしたが、受取り手にとっては青天の霹靂。かえって怒りを深めてしまったようです。
 結局先方の怒りは電話だけでは収まらず、もう一度出向いて頭を下げることに。その席でも
「何が気に入らないのですか?不安があれば今ここで言ってください」
 と最後の交渉が待っていました。
 N君も覚悟を決めて、正直に給与や待遇に不安があると言いましたが、
「給与システムもうちの社員からは不満は出ていません。きっと入れば安心して働けます。あなたなら大丈夫、すぐに正社員になれますよ」
 と持ち上げられ、説得されてしまいます。それでもN君は重ねて入社の意思が無いことを告げると、担当者は態度を豹変。
「わかりました。今回はご縁が無かったということですね。でももっと早く言ってもらわなければ困ります。だいたい手紙なんて時間がかかるもので連絡するのが間違ってますよ。もっと早ければ別の応募者を採用することもできたのに……。今からでは求人票ももう一度出さないといけないし、また面接からやり直しだ。その損害を、社会人としてどうお考えなんでしょうか?」
 金銭的賠償を持ち出す担当者に、N君はひたすら身を小さくして、頭を下げるしかありませんでした。
サクセスポイント
今回はココが問題!
転職の内定辞退
転職の場合の内定は、学生の就職とは違い、企業と求職者の交渉の一過程にすぎません。しかし入社を承諾した後の辞退はそれなりの対応が求められます。
まず、辞退を告げるのは少しでも早く。第一報は電話が良いとされています。手紙やメールは一方的な印象を与えますし、手紙は郵送の時間がかかります。どうしても一筆したためる場合は、電話や訪問で辞退を伝えたのち、詫び状の形で出すのがいいでしょう。
これでサクセス!
辞退の交渉
電話で辞退したい旨を告げた後、そこで先方が納得するか、もう一度会うことを希望するかは、会社や担当者によって違ってきます。どちらの場合でもおそらく辞退の理由を聞かれるはず。辞退の意思が固い場合は率直にその旨を伝えましょう。「御社のレベルに達していないので」「やっていけるかどうか不安」などのお見合いのお断り的な言い訳では、再度交渉に持ち込まれる可能性があります。
まれに損害賠償請求の話を持ち出す人もいますが、採用に先立って住居など金銭的な準備があった場合を除くと、応募者が実際に賠償するケースはあまり無いでしょう。採用側が感情的に拗れて口にする場合がほとんど。そうならないためにも、辞退の意思は迅速に告げ、説明はキッパリ簡素にしましょう。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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