転職失敗談2
ブラザー疲れ
新入社員と先輩社員が兄弟のような絆で結ばれる“ブラザー制度”。しかし気の合わない“兄”を持たされた新入社員、M君の行く末は……。(→後編はこちら
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諸刃の剣、“ブラザー制度”
情報産業D社には「ブラザー制度」という独得の新人教育システムがありました。新人ひとりに先輩の社員がひとり、文字通り兄弟のようにつきっきりで一年間指導するというもの。近い存在の社員から教えを受けることで、いち早く現場や社風を知ることができるため、新人育成としては大きな効果を上げていました。
また、ブラザー関係にあった社員同士は、指導期間が終わった後も部署を超えた上下関係で結ばれていました。ブラザーと相性の良かった新人は、仕事のスタイルがそっくりになり、直属の上司以外にも相談できる相手としてブラザーを頼ることも。しかし、その一方で相性が合わないタイプがブラザーになった新人にとっては、悲劇的な制度であったのです。
営業部門の新入社員だったM君は、自分のブラザー・Hさんが大の苦手でした。どちらかというと大人しく、素直な性格のM君に対し、Hブラザーは本音と建前のギャップが激しいタイプ。M君を相手に仕事の愚痴をこぼしたり、上司の悪口を聞かせたりする先輩だったのです。
「○○チーフの気分屋には困ったもんだ。ご機嫌とるだけで必死だよ。ここだけの話、奥さんとうまくいってないらしい」
「××さん今チームリーダーだけど、あれはおこぼれ昇進だよ。仕事は雑だし、字は汚くて読めたもんじゃない。近寄るとタバコとコーヒーの混じった匂いで、臭くてたまらん」
Hブラザー自身が入社2年目ということで、M君を指導育成するよりも、ついつい自分の愚痴を聞かせてストレス解消に役立てていたようなフシがあります。固定観念を持たずに入社してきたM君にとって、こうしたダーティな部分から刷り込まれるのは、たまったものではありません。
ブラザー不信
半年が過ぎたころ、営業部全体でミーティングが開催されることになりました。その時、新人たちの成長を見るということで、同時に勉強会が設定されていました。
各部署の新人たちは、企画や目標などを発表することになり、M君もその準備に追われます。そんな中、教育係であるHブラザーに発表内容のチェックをお願いしたところ、
「うん。いいんじゃない?こういうのは形だけだし、大体まとまってればOK、OK」
 と、いつになく上機嫌な返事が返ってきました。
Hブラザーの言葉を信じ、レジュメの準備を進めていたM君でしたが、ほぼでき上がったところで、チーフに最終確認をもらいにいったところ、
「何だこれは。全然方向性がズレてる。こういうことを発表する場じゃないだろう。
君はブラザーにちゃんと教わったのか?
と激しく注意され、拒否されてしまったのです。
「この内容は全然違うって言われました」
 あわてて再度相談にきたM君に、Hブラザーはこう言い放ちました。
「だからチーフは気分屋だって言ったじゃないか!もっと空気を読んで対応してもらわないと、こっちにしわ寄せがくるんだよ!困ったなぁ……」
チーフの虫の居所が悪かったせいで、拒否されたと言わんばかり。Hブラザ−は、自分に火の粉がかかることばかりを心配しています。
「でも、修正しないわけには……。どこを、どういう風にしたらいいんでしょう」
「さあ?チーフの判断基準は俺にも分からないから、何とも言えない。自分で考えてよ」
 自分のブラザーに突き放されてしまったM君は、他のブラザーから教育された同期に教えを乞い、なんとか発表の準備を整えました。
 しかし土壇場になって突き放されたことで、M君はHブラザーに決定的な不信感を抱くようになってしまったのです。

(→後編に続く)

pen2 ブラザー制度の元、M君とHさん“兄弟”の確執はいよいよ深まり、我慢の限界を突破したM君は辞表を叩き付ける……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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