転職失敗談2
帰ってきた息子
機動力と決断力に惹かれてオーナー企業A社に転職したEさん。「同族企業にはしない」という社長の言葉を信じたのだが……。(→後編はこちら
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牽引力に賭ける
同族企業、オーナー企業というと、ワンマン経営や公私混同しがちな経理体制など負のイメージが強い反面、トップダウンによる意思決定の早さなどメリットもあるもの。そうしたメリットに目をむけ、オーナー経営の企業へ転職を決めたのが、流通系中堅企業に在職していたEさん。
 Eさんの勤務先では決済経路が複雑で、特に下から何か提案する場合はとにかく時間がかかるという状態。おのずとビジネスチャンスを逃したり、競合に遅れをとるケースも出てきます。Eさんもうんざりし、転職先を探していました。
 そうして出会ったのがオーナー企業A社。創業社長は働き盛りで、気軽にオフィスに出て現場の仕事につくフットワークの良さと、社員を集めて陣頭指揮を取るパワーを合わせ持っていました。
 とりわけEさんが惚れ込んだのが、決断の早さとトップダウンによる迅速な指示。オーナー社長ゆえの絶大な力により、トップと話がつけば物事を一気にまとめることも出来るのです。
 オーナー企業としての不安もないことはありません。しかし、役員名簿には社長の妻の名が並んではいるものの、名義上のもので実際に現場に出てくることはありません。社長も
「経理上の処理です。同族経営ではありません。プライベートと仕事は分離したいのでね。同族経営でダンナが社長、奥さんが経理、なんてのはいけない。いろいろやりにくいでしょう?従業員も私もね(笑)」
 と冗談めかしながらも同族経営の可能性を否定。採用面接の場でいち早く社長と接し、その牽引力に賭ける気になったEさんはA社への転職を決めたのでした
息子のため?
A社へ転職し、数ヶ月。Eさんは営業部に籍を置き、営業部長に次ぐ仕事内容を任されていました。時には社長と連れ立って得意先を回るなど、充実した日々を送っていました。
しかし、周囲の社員の社長に対する視線は冷めたもの。何年も同じ職場で仕事をすれば慣れもするし、欠点も見えてくる。そうした結果かとEさんは解釈していましたが、社員の“冷め”のワケは、どうやら違うようなのです。
「今朝の社長の言葉聞いた?」
「『会社のためではなく、皆さん自身のためにがんばるのです』ってアレ?」
「そうそう、『会社とうちの息子のため』の間違いでしょう」
「俺たちががんばって稼いだところで結局息子のものになるんだから……」
営業部の社員3人が喫煙ルームに寄り集まり、ボソボソと会話していたのです。ただの愚痴ではなさそうだと気になったEさん。
「社長の息子さんて、この会社にいらっしゃるんですか?」
「いや、今はいないよ。ちょっと前に大学卒業して、今は別の会社で働いてる」
「ゆくゆくは戻ってきて部長クラスか役員か……」
「でも、社長は同族経営は避けたいという風に言ってましたよ。面接で」
「へぇ?!そんなはずないでしょ。だいたい息子の勤務先だって取引先の企業で、“修行”に出してるようなもんだし。ゆくゆくは引き取るに決まってるよ」
社長の言葉を信じたい反面、裏切られたような気持ちも押さえられません。
それでも社長の息子が帰るのはまだまだ先のことと、自分を納得させていたEさんでしたが、そんな気持ちを覆す出来事が起こってしまうのです。

(→後編に続く)

pen2 帰ってこないはずの社長の息子が帰ってきた!社長Jr.の存在に、Eさんは振り回されて……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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