転職失敗談2
母のリクエスト
両親を故郷に残し都心で働くSさん。両親も息子の意思を尊重していたが、結婚話が持ち上がったことで関係がぎくしゃくし始める……。(→後編はこちら
バックナンバー
息子の夢、親の希望
Sさんは日本でも有数の山間部の出身。中学・高校までは地元の学校に通っていましたが、それ以上の教育機関が地元に無く、都会の大学へ進学。そのまま就職も都会で決め、現在に至っています。Sさんの専攻は情報科学。卒業後もプログラミングを仕事にしたいという希望があり、仕事の選択肢が少ない故郷では希望する仕事につけないという理由もあっての選択でした。
 Sさんには兄が1人いましたが、早くからバックパッカーとしてあちこちに出かけていて、今もほとんど家には寄り付かない状態。両親も半ばあきらめていて、次男のSさんを精神的に頼りにしているフシがありました。そのことを考えると故郷に帰って仕事をするという選択肢も頭をチラつきますが、やりたい仕事を犠牲にはできず、なんとなく都会での生活を続けていました。
 Sさんの両親にしても息子の希望を尊重しており、ハッキリ「帰ってこい」と口にすることもありませんでした。
 ところが一見穏やかに見えたこの親子関係、Sさんが結婚したいと両親に言い出したことから波乱が起きることになります。
 Sさんの結婚話には両親も大喜び。妻となる人についてあれこれ熱心に質問も進みました。Sさんの婚約者は同じ勤務先で事務職として働いていた女性。会社のある都心で育ち、今も実家から通勤していました。
「ということは、先方のお宅もそっちにあるのか?」
「そうだね。向こうの家は電車で1時間かからないかな」
「じゃあ、結婚しても何かと向こうのお宅にお世話になることも多いなぁ……」
「結婚したら別に家を借りるけど、まあ近いから何かの時にはね」
 何の不安も無く答えていたSさんでしたが、Sさんの母親はうれしさにと同時に、寂しさと少しの不安が入り交じったような表情になっていきました。
「向こうのお宅に婿にいったような感じにはならないかねぇ」
 Sさんの故郷では、就学のため都会に出ていた男性たちが、結婚後に妻を連れて帰郷し、地元で仕事に就いたり、家業を継いだりというパターンが一時期定着していました。しかし、次第に都会育ちの妻の意見や自分の仕事への愛着から、そのまま都会に留まり帰ってこなくなる者が増え、結果、夫の実家よりも妻の実家の方が近いという新婚家庭が続出。
「この辺りでは孫の顔を見るのも一苦労」
「うちに遊びにきても泣いて帰りたがる。内孫なのに……」
 という状態になっていたのです。
 独り者の息子ならいつかは自分の元へ帰ってくる、と希望をつないでいたSさんの母。結婚話を前に急に不安が増大、積極的にSさんの帰郷を促すようになっていきます。

(→後編に続く)

pen2 SさんのUターン転職を画策する母。職種の違いを盾にして断り続けるSさんだったが、母親は隠し球を出す……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
バックナンバー

▲ページのトップへ