転職失敗談2
母のリクエスト
しきりにUターン転職を勧める母親。職種の違いから乗り気になれないSさんだったが、母親の見せた情報はSさんの気持ちを変えた……。(→前編はこちら
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リゾート・オフィス
山間部の集落で育ったプログラマーのSさんは大学進学と同時に都会で一人暮らしをはじめ、そのまま現地で就職。そして会社で知り合った女性と結婚を控えていました。そこで俄然躍起になったのがSさんの母親。このままではSさんが都会に、妻の実家に取り込まれてしまうと慌てたのです。
「最近ニュースになってたんだけど……」
 と母親が出してきたのは、地元のUターン転職募集の記事でした。
 Sさんの故郷は自然が豊かなことから、昔から企業の保養所やコテージなどの集中する地区がありました。ところが平成大不況で保養所を手放す企業が続出。今では利用する人も少ないゴーストタウンと化していました。ここに目をつけた自治体が、閉鎖された保養所を改築し、最新鋭の通信機器を備えた格安のIT企業向け賃貸オフィスとして貸し出すことにしたのです。通信にはメールやテレビ電話を使い、直接の移動も飛行機を使えば東京から1時間強。周囲の環境はリゾートそのもの。何より賃料の安さがウケて、すでにいくつかのIT関連企業が入居し、業務を始めていました。
 しかし問題は人材不足。こうした企業では現地で勤務するスタッフを今募集しているのだと母親は言います。業務上のやりとりには問題が無いとはいえ、こんな田舎街にあえて越してこようという人間は、出身者でも無い限り少ないだろうとSさんも思います。
「こういう所に勤めるわけにはいかないの?このあたりだったら環境もいいし、結婚して子供が出来ても安心して子育てできるんじゃない?」
 確かにかつての故郷では地場産業が幅を利かせており、IT関連の開発現場など望めない状況でした。そうした理由もあって、故郷に老親を残していることを気にかけつつも、Sさんは都会に留まっていました。
 しかし同業種での転職ができるのであればと、この新しい地元企業への転職を、Sさんは前向きに考えはじめました。またそのことを婚約者の女性にも打ち明け、挨拶がてら2人でSさんの故郷を見に行くことにしたのです。
電池が無い!
しかし実際にSさんの故郷を目の当たりにした彼女は
「こんなに山奥だと思わなかった。確かに環境はいいけど、ここで生活するの?」
 と驚愕。幼稚園も近くに無いし、小学校は公立だけ。もっとも受験させようにも、学習塾などもありません……。
「大学も会社もないのでは、子供が大きくなったら結局はあなたのように出ていくじゃない。だったら無理して戻らなくても。ここはリゾート地としてはいいけど、暮らすには……」
 断固反対の立場を取り始めたのです。
 またSさん自身の情報収集でも、予想以上にUターンの厳しさを実感することに。先にIT企業にUターンした友人たちに話を聞いたところ、
「たしかに通勤地獄もないし、空気はいいけど……収入ダウンは覚悟しとけよ。都会に比べるとやっぱり給料は全体的に安い上、残業がそんなに無いから、手取りの額は比べ物にならないよ。地元では普通の条件でも、都会と比べるとどうしても……。親の面倒をみようと思って戻るなら、会社員より親の家業を継ぐとかしないと難しいよ」
「仕事は本社から送られてくるけど、いざという時すぐに本社まで行けないし、やっぱり離れ小島って感じはある」
「それにやっぱり田舎は田舎だ。新しい言語を覚えようと専門書を探そうにも、個人商店ばっかりでツッコんだ専門書なんか置いてない。こないだなんか、バックアップ用のボタン電池が切れたんで買いに出たけど、車で1日走り回って探しても見つからなくて、結局1週間待って取り寄せた。こんなとき大型電気店がある都会がつくづく懐かしいよ……」
 IT業界のように、常に新しい知識を吸収し続けなければならない業種では、情報が停滞しがちな田舎暮らしは向かないと、Sさんは次第に思い始め、Uターン転職への熱意を失い始めます。
 しかし当初からUターンを強く勧めていた母親は、Sさんの心境の変化を知りません。せっせとUターン関連の切り抜きや募集広告を送ってくる母親に、Sさんは仕事のことや子供の教育環境などを引き合いに出して説明しました。しかし一度夢を描いた母親はどうしても納得できず、
「私の気持ちより、嫁の気持ちを大事にしてる!」
 と怒りを嫁姑問題にまでこじれさせ、しばらくの間Sさんを苛み続けたということです。
サクセスポイント
今回はココが問題!
転職の妥協点
Uターン転職の場合、第一目的が「故郷に住む」ということに置かれるため、仕事内容や待遇・収入面での妥協を余儀なくされる場合があります。都会での勤務条件そのままに、地方でも仕事を……というのは難しく、ある種の割り切りが必要。仕事内容、勤務地、待遇、環境など、何を優先するのかハッキリさせて。
これでサクセス!
Uターンは情報収集が命
地方への転職で一番有効なのは現地での情報収集。全国規模のメディアなどに掲載せず、地元でしか公開しない募集や、急な求人も多いものです。こうした情報をキャッチするには、故郷へのUターンの場合なら知人・親戚などのバックボーンを活用することが大事。現地の情報を細かく提供してもらう協力者を作っておきましょう。
またUターン転職の場合、通信費や移動にかかる交通費、時間などが通常の転職活動以上に必要になります。また内定後も転居を伴いますので、経済的余裕を持って臨む必要があるでしょう。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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