転職失敗談2
怒りの大改革
オーナー社長の秘蔵っ子として様々な企画を立案・実行し、ポジションを築いてきたS氏。しかし歳を取るとともに社長の気質も変化しはじめて……。(→後編はこちら
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社長秘蔵の新人
S氏が営業部きっての若きチームリーダーに就任したのは入社2年目の24歳のとき。トップクラスの好成績をおさめていたという事実も抜擢理由の一つでしたが、加えて影響したのは、誰もが距離を置きたがるオーナー社長に気軽にコンタクトをとり、知恵を借り、仕事に生かすというその仕事スタイルが社長にいたく可愛がられたこと。社長は自分の営業理念を受け継ぐ新人として、S氏に目をかけていたのです。
 S氏はその後も社長の寵愛におごることなく仕事を続け、周囲からもあつい信頼を得ていきます。とりわけ同僚や後輩たちから頼りにされたのは、社長を説得するといった場面。社長との対話で、どうアプローチすればどんな反応が返ってくるか、S氏は他のどの社員よりもよく心得ており、多少無理のありそうなプロジェクトでも、彼の口から説明すれば承認を得られることも多かったのです。
 そんなわけで「社長に話すときは、Sを通せ」という言葉が同僚たちの間でささやかれ、誰もがS氏に一目置くようになっていました。
 しかし社長とS氏の“蜜月”は、いつまでも長続きはしなかったのです。

 社長は創業者によく見られる「すぐ発案すぐ実行」を旨としてきた人物でしたが、年齢を重ねるうちにさらに気が短く、怒りっぽくなっていきました。
 思いついたことはすぐ実行しないと気が済まない。意見を求めたらすぐに気の利いた返事が返ってこないとイライラする……。
 いつぞやは、カーペットについていた糸くずを見つけ、
「こんなものが落ちているのはたるんでいる証拠だ!今すぐ掃除当番を決めなさい!早く決めなさい!」
 と、会議で怒り狂ったことも。
 気がつけば働き盛りの機敏な創業者は、社内の何を見てもひとこと言わなければ気が済まない、初老の気難しい経営者になっていたのです。
気難しい社長
社長との間に抜きん出て良好な関係を築いていたS氏でしたが、社長の気難しさはついに彼をも餌食にしてしまいます。社長に新しいキャンペーン企画を提出したときのこと。多少の冒険はあったものの、今までのように言葉を重ねれば承認を得られるだろうと、S氏は説明を始めました。ところがすっかり気が短くなっていた社長、S氏の口調にカチンときたのか、営業部の社員たちがそろった前で、
「今この時期にキャンペーンなど、まったく話にならん!本末転倒だ!それでも営業か?リーダーか?!」
 と、思い切り面罵を浴びせたのです。
あのSにまで」「とうとうあいつも……」そんな衝撃が周囲に走りました。

 社長の短気はさらに増します。過去に自分が決めたルールも怒って反古にする。長年使い慣れたシステムも一朝一夕で変更する。社員の言動だけでなく、かつて自分が下した決定にまで怒りをぶつけはじめたのです。

 この会社では、毎年お盆シーズンはカレンダーと関係なく10日以上、年末年始に匹敵するほど長期の夏期休暇が用意されていました。普段はサービス残業あたりまえ、会社で宿泊、タクシー帰宅数知れずという激務を続ける社員たちに、せめて夏休みぐらいはたっぷりと、家族にも存分にサービスを、という社長のはからいではじまったものでした。もちろん社員たちからも大好評。
 その分、毎年の準備も大変です。営業社員たちがしたためる暑中見舞いには、
「当社は8月×日より×日まで夏期休暇を頂きます。ご不便をおかけしますが、なにとぞ……」
 といった文言が必ず入れられ、顧客フォローを怠りません。また休暇の知らせを受け取った得意先から、
「毎年のことながら、××さんのところ(会社)は太っ腹ですなあ。うらやましい」
 などと返されるのも、一種の風物詩となっていました。
 この長期休暇が、社長の新たな怒りのタネになってしまったのです。

(→後編に続く)

pen2 社員に大好評だった大型夏期休暇。しかし唐突に社長が廃止を宣言する。原因はなんとS氏……?!次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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