転職失敗談2
軽い気持ちで
持ち前の好奇心とフットワークの軽さで3度目の転職を目指すKさん。「未経験者歓迎」の言葉を信じて飛び込んだ面接会場で……。(→後編はこちら
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恩恵ある仕事
十分に情報を収集・分析しても内定に至らなかったり、せっかく入社してもミスマッチに泣かされたり。逆に軽い気持ちで受けた面接がサクサク進んだりと、そんな番狂わせが多く生まれるのも、転職の難しいところ。

 26歳で2回の転職を経験しているKさんは、アートスクールの事務の仕事に就いていました。勤務先のスクールは、代表の“先生”の業界コネクションを生かし、有名人を講師に招くというのが目玉。
 しかし創立当初はイベント続きで華々しかったものの、最近ではその手の特別講師はほとんど登場せず、ただパンフレットに名を連ねるばかり。
 もともと多くはなかった生徒数も更に減少が目立ちはじめ、最近では“先生”の私塾に近い、こじんまりとした状態に。常に関心の持てる業界で仕事をしたいと願い、転職を重ねてきたKさんにとって、この職場の魅力はすっかり色あせてしまいました。
 もともと事務の仕事そのものは至って地味でしたが、“先生”の普段の姿に触れたり、著名なゲスト講師の裏面を見聞きしたり。そうした「業界っぽさ」に触れる恩恵が楽しかったのです。
 ところが、スクールの規模が縮小しはじめると、そうした華やかな雰囲気は薄くなり、面白みも半減。Kさんは3度目の転職を考えるようになりました。
履歴書だけ持参
「アート系のスクールで働いていましたので、アート系の仕事の面白さは知ってるんです。この職種の経験は無いんですが、興味があって……」
 WEB制作会社B社のアートディレクター募集の記事を見かけたKさんは軽い気持ちで問い合わせを入れていました。
 この仕事はクライアントの要望を聞き、デザイナー、コピーライター、プログラマーなどのスタッフに業務を切り分け、指示を出す舵取り役。通常、制作スタッフの中から転じることの多い職種ですが、社歴が若いB社では社員を育てる余裕が無いため、中途採用でまかなうことになったようです。
 その求人広告を目にしたKさん。経験は無いものの「未経験者歓迎」「問い合わせはまず電話で」の文字を素直に受け止め、話だけでも聞こうと気軽に受話器を握ったのでした。
 ところが何が良かったのか、
「履歴書持参で面接に来てください」
 と早速の呼び出し。フットワークの軽いKさんは重く考えることもなく、履歴書をしたため指定された日にB社へ出かけます。
 B社の入り口で名前と目的を告げると、待合室のようなブースに通されました。中にはすでに数人のスーツ姿の男性が座っています。
「順番に名前をお呼びしますので、こちらでお待ちください」
 案内の社員に指示されるまま、隅の席に腰をおろしましたが、面接開始まではまだ時間があります。Kさんは気軽に隣の男性に声をかけました。
「あの、あなたも面接を受けられるんですか?」
「はい」
「何の職種で応募されたんですか?」
「ディレクターです」
「僕もですよ」
 奥に座っていた別の男性からも声がかかりました。今日集められたのはみな同じ職種に応募したライバルのようです。改めて他の応募者を眺めてみると、ビジネスバッグの他に大きなファイルやケースを持参している人が目立ちます。
「あの、それ何ですか?」
 隣の男性に聞いてみたところ、
「ポートフォリオですよ。今まで手がけた仕事の作品ファイルです」
 さすがに開いてみせることはしなかったものの、分厚そうな背表紙をちょっと出して説明してくれました。
 ディレクター経験の無いKさんには手がけた作品などありません。「履歴書持参で……」という言葉を信じて、ひとり手ぶらで来ていたのです。

(→後編に続く)

pen2 強敵ぞろいのライバルに直面し、軽いショックを受けるKさん。ダメもとで面接に挑むが……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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