転職失敗談2
軽い気持ちで
経験者ぞろいの面接会場で、アピールするものを持たない未経験者Kさん。あきらめ半分で、自分の希望を延々と語ったところ……。(→前編はこちら
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のびのびと語る
待合室でいっしょになったライバル応募者たちは、ほとんどが経験者。過去に自分がディレクションした“作品”をファイリングし持参していました。彼らの中、ひとり手ぶらでやってきたKさん。さすがに、一瞬気持ちがひるみましたが
「なに、自分はちょっと興味があって来ただけだし、未経験なんだからしょうがない。話を聞くだけ聞いて退散しよう」
 すぐに気をとりなおし、持ち前の前向きさで気楽に面接に向かうことにしました。
「僕は未経験なので、作品集とかファイルとか持ってきてないんです。ただ興味はありますからお話だけでも伺おうと思って」
 と正直に語りだし、自分の興味について、延々と語り続けたのでした。それもこれも「たぶん不採用だから」というあきらめあってのこと。のびのびと、Kさんの面接は終わりました。
 これでもうB社との縁は切れたと、面接の記憶も薄れ始めていた1週間後、Kさんの元にB社から連絡が入りました。なんとKさんを採用したいとのこと。これにはKさんもびっくり。
「ほかにも経験者がたくさんいたのに、どうして僕を採用することにしたんですか?」
「そうですね、一言でいえばバランスが取れていたからでしょうか」
「?」
「たしかにKさんはまったくの素人で、キャリアでは他の応募者に及びません。しかし、他の方々は技術的なことを追求するあまり、会社人としてのバランス感覚に欠けると判断したのです。なまじ技術やキャリアがあればプライドも出てくる。この仕事はクライアントとスタッフの間に立って、うまく調整していくことが一番だと思っています。プライドゆえに我を通すようなことがあってはやっていけません。我々が必要なのは芸術家ではなく会社人。そういう点で、Kさんなら会社人になれると思ったのです」
 担当者は、最初から最後まで話術だけで面接を乗り切ったKさんの態度を高く評価し、作品にこだわる経験者たちをおさえて採用に踏み切ったのだ、と結びました。Kさんの返事ももちろん、OKです。
喜びのコメント
内定を知らされてからというもの、Kさんはよほどうれしかったのか、会う人ごとにこの話をしないではいられません。
「いやー、軽い気持ちで『どんなもんかなー』って電話したら、すぐに呼び出されて、いきなり内定だもん、びっくりしたよ。最初は話聞くだけだと思ってたのにさぁ……」
 と、軽い気持ちでの応募が先方に見込まれていきなり内定までたどり着いたと、喜色満面で説明していました。
 やがて初出社の日。初めて会う同僚たちへも、Kさんはにこやかに挨拶をすませます。休憩時間になると周囲の社員たちがKさんの側に集まり、質問を投げてきました。
「Kさんはなんでうちに入ったの?同じような仕事してたの?」
「いえ、違うんですよ。実はちょっと興味があって軽い気持ちで『話だけでも』と思って問い合わせたら、いきなり『いつ来れますか?』って呼び出されて。この仕事、まったく経験ないって言ったんですけど、なんだか内定が出てしまって……。あ、なので、いろいろと教えてもらわないといけないと思います。よろしくお願いします」
 根が正直なKさん。こんなやりとりをいたる所であらゆる人と交わしてしまったため、入社の経緯は瞬く間に部署内に広まりました。
「こんど来たKさん、軽い気持ちで入社したんだって?」
「なんか、自分はソノ気じゃないのに、強引に口説かれて入社した……みたいな言い方じゃない?」
「でも何にもできないんでしょう?前にやってた仕事、事務だって言うし」
 決してKさんに悪気があったわけではありません。身に余る「予期せぬ幸運」を伝えようとした口調が、周囲から「軽薄なヤツ」との反発を招いてしまったのです。
 しかも仕事上でも未経験者。人をまとめる立場にありながら、逆に教えを乞うことや失敗も多く、ますます周囲を苛立たせてしまいます。
 周囲の反応が良くないことを感じたKさん、あわてて話題作りをしようと、前の職場で見聞きした、有名人の裏話などを披露したのですが、それすらも裏目に出て
「聞きたくもない有名人のネタなんか披露されても……」
 と、経歴をひけらかしているようにとられてしまい、散々な反応。
 最初はにこやかに迎えてくれた同僚たちも、最近では必要以上に口をきいてくれないため、Kさんは業界のことも仕事のことも、ひたすら独学の日々だとか。
サクセスポイント
今回はココが問題!
入社後の視線
者・中途採用者が多い職場であれば、転職者がひとり目立ってしまうということもありませんが、そうでない場合、多かれ少なかれ職場の視線を集めてしまうもの。その後の会社生活を快適なものにするためにも、転職直後の言動には特に注意が必要です。
これでサクセス!
周囲にうまくとけ込むには
転職による慣習や風土の変化は予想以上のストレス。かといって萎縮しすぎて周囲に合わせるばかりでは転職の意味がありませんし、自己流を貫けば転職者特有の異質さが際立ってしまいます。周囲にうまくなじみながら、自分らしさやキャリアを生かしていくには、(1)前の職場と比較しない、(2)職場の雰囲気や環境をよく観察する、(3)分からない社内慣習や用語については積極的に情報収集する、など。
職場になじんだところで、徐々に自分の仕事方法を実践していくとスムーズでしょう。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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