転職失敗談2
受付のしごと
人員整理で人手が足りなくなったA社では、営業アシスタントに受付業務を兼任させるようになったのだが……。(→後編はこちら
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慣れぬ気配り
中堅メーカーA社で営業アシスタントの仕事に就いていたKさんは、会社の人員整理で社員が減ったため、受付業務まで任されることになりました。といっても、内線とともに外線も受けるようになったり、営業部から目と鼻の先の玄関で来客に対応するなど、ちょっとした作業が増えただけともいえます。しかし前任者の慌ただしい退職の結果、引き継ぎらしい引き継ぎもなかったため、はじめは思いもよらなかった面倒さにだんだん気づかされることに。
 たとえば外線電話を受け、社内の社員に取り次ぐという仕事。元々営業アシスタントとして外部からの電話を取ることも多かったKさんには簡単な仕事のはずでしたが、難関は社員への取り次ぎ作法だったのです。A社の社員にはいろいろなタイプがいて、肩書きで呼ばれることを喜ぶ人、逆に「さん」付けの名前で呼んでほしいという人など様々。中には
「格式張った呼び方なんかしなくていいよ」
 と言いながら、実際は役職名で呼ばないと不機嫌になる、そんなあまのじゃくな上司もいたから大変です。Kさんは当初、そうした微妙な事情を完全に無視し、全員「さん」付けに統一していましたが、
「あいつはブッキラボーで失礼だ」
 と批判的な声や、
「○○さんのことは、“マネージャー”と呼んでくれ。でないと一日中ムッツリしてて周りが困る
 と周囲からの哀願の声まで聞こえてくるようになり、結局、役付き一人ずつに対しての“呼び方表”を作る羽目になってしまったのです。
 その肩書きもA社では多種多様で、部門や所在地によって「所長」もあれば「ゼネラルマネージャー」の場合もあり、「チーフ」もいれば「主任」もいるといった具合の混沌状態。昇進した上司をうっかり元の肩書きで呼ぶという失敗もしてしまい、Kさんは慣れない気配りに疲れきってしまいます。
 しかし、こうした肩書き問題など、些細なトラブルにすぎなかったのです。
居留守天国
Kさんが受付業務を兼ねて3ヶ月ほど経った頃から、A社では居留守を使う社員が増え始めました。
 当初Kさんは担当者に言われるがまま「離席中」「会議中」「外出中」と伝えていたのですが、最初はそれで引き下がった電話主も、二度三度と続けば怒り爆発。電話対応に出るKさんを激しく罵倒する人も出てきます。
「ずっと『席を外しております』では、誰も納得してくれません。次はちゃんと出てください」
 我慢の限界を越え、居留守を使う社員に直接掛け合いにいったKさんでしたが、
「いや、今出たらよけい話がややこしくなるんだ。そこをうまくあしらうのも受付の仕事だろう」
 押し問答の末、言いくるめられてしまい、その後も居留守 vs 怒りの電話応答にかり出され続けたのです。
 が、こうして電話に出ているうちに、ふと気がついたことがありました。
 はじめのうちはかかってくる怒りの電話は、A社の商品を卸している問屋や顧客筋からのものがほとんどだったのですが、次第に下請け企業や材料を仕入れている発注先企業からの問い合わせが加わるようになっていたのです。
「何が起こっているのかよく分からないけど、これってかなりヤバい状況なんじゃ……?」
 慌てたKさんは他の電話対応スタッフとともに上司の元へ。
「居留守を使う方も多くて、これじゃ逆効果です。今いったい何が起こってるんですか?説明してください!」
「いや、心配するようなことは……」
「直接怒られるのは私たちなんですよ。理由も分からず罵られて。こんなのもう我慢できません!」
「うーん、気持ちは分かるんだけど……」
 上司は押され気味ながらも「今だけだから」「すぐに収まるから」「うまく対応して」を繰り返すばかり。結局何が起こっているのか、理由は分からずじまい。
 業を煮やしたKさんは、兼任している営業アシスタントとしての人脈を使い、仲のいい営業マンをつかまえて探りを入れてみることにしたのです。

(→後編に続く)

pen2 増え続ける苦情の電話と社内の噂。社員たちの間に転職ムードが高まりはじめるが……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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