転職失敗談2
社内の同情
結婚を控えたやり手のコピーライターMさん。その婚約者は同業他社へ転職した元同僚だった……。(→後編はこちら
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婚約者は転職者
広告制作プロダクションC社に勤めるコピーライターのMさんは結婚を控えた28歳。これまでにC社が送り出した名コピーは彼女の手によるものが多く、広告効果の点でも群を抜いていました。当然、Mさんを指名するクライアントやスタッフも多く、名実共にC社のトップコピーライター的存在。当然Mさんは結婚後も仕事を続けることを望んでいました。
 Mさんの結婚相手は元C社で同僚だったT氏。T氏はMさんと同じくコピーライターですが、数年前に転職していました。C社に古くからいる社員たちは「あのTさんか」と懐かしく思いながらも、
「社長がなんと言うか……」
 と一抹の不安を抱いていました。
 というのもT氏は、C社を退社するとき社長に強く引き止められた上、社長の知る同業他社に転職してしまった人物だったからです。
 当時、どうしてもT氏の転職を止められないと分かった社長は、
「コピーライターも修行しなくちゃならないからな。他所の釜の飯を食べるのも勉強だ」
 と強がり半分、表向きは転職を認める言葉を口にしていましたが、悔しさは残るのか、年賀状がこなかっただの、義理を欠いているだのと、ブツブツこぼす姿も目撃されており、T氏の転職問題は根の深さを感じさせていました。
 そんなT氏とMさんが結婚することになったのです。社内には祝福ムードと共にちょっと微妙な雰囲気が流れていました。
波乱の披露宴
T氏とMさんの結婚披露宴は今流行のレストラン・ウエディングでした。挙式は、披露宴会場で行う人前式の形を取っており、媒酌人や仲人は立てていません。会場には社長はじめC社の会社関係者、そして新郎であるT氏の会社関係者が顔を揃えました。
 披露宴は手作り感あふれるアットホームなもので、列席者は概ね楽しそうにしていましたが、T氏サイドの人間と同席することになった社長は不機嫌を隠そうともしません。
「なんだこの披露宴は。仲人もなければ媒酌人もない」
「スピーチを頼んでおいて、Tの親もMの親も挨拶にこない」
「だいたいこんな隅の席に私を座らせて、友達を前にするなんて!」
 あれこれと難癖をつけ、披露宴の間中ブツブツこぼし続けていたのです。
 そんなことがあって社長に対して居心地の悪さを覚えるようになったMさん。
 仕事の上ではあいかわらずMさんを名指しする案件は入り続けており、以前にもまして忙しい状態です。それなのに社長のMさんへの覚えは依然悪く、仕事の結果がなかなか評価されないといったことさえ起こり始めます。
 そうした雰囲気の中、他の社員の同情はMさんに集まっていました。
「一生に一度のことなのにあそこまでグチグチ言うなんて……」
「社長の考えが古いんだよ。それにしてもMさんも大変だな」
 実際Mさんは結婚生活を始めるパワーに加え、仕事の忙しさ、社長との微妙な関係と、色々な問題を抱えて傍目にも疲れきっていました。
 しかし、そんな彼女を見かねて、救いの手を差し伸べる人が現れます。普段からMさんの状態を見ていた上司のF氏が、Mさんにこんなことを提案したのです。
「M、これを機会に独立してみないか?」

(→後編に続く)

pen2 不運な巡り合わせで肩身の狭い思いをしていたMさん。現状を打破するために上司は独立を勧めるのだが……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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