転職失敗談2
指導と教育
凄腕塾講師の前職を持つSさんは、畑違いの新設部門管理者に抜擢され、転職者たちを指導することになったのだが……。(→後編はこちら
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アカデミックな管理者
広告代理店F社に勤務するSさんは、人を指導することを得意としていました。
 それもそのはず、学生時代から家庭教師のアルバイトに精を出していたという経歴の持ち主で、授業についていくのがやっとという生徒を指導し、見事両親の希望する学校に合格させたこともありました。その実績を買われて、大学卒業後は大手学習塾で講師として活躍してきたのです。
 その凄腕講師がなぜ職を変えたのか、当然F社の同僚たちは不思議がりました。少子化傾向を危惧したらしい、結婚を機に勤務時間を安定させたかったのでは、など憶測が飛び交いましたが、当のSさんから理由が明かされることはなく、結局謎のまま。長年人を導いてきたせいか、Sさんには気軽に話しかけにくい、アカデミックな雰囲気があったのです。
 さて、転職から数年は営業部に配属されていたSさんですが、社内の構造改革に伴い、新設される制作部門のトップにつくことになりました。
 F社にはこれまで制作を手がける部門は存在せず、クリエイティブ作業はアウトソーシングに頼ってきました。ところがそうした外注先の一社が解散することになり、その一部のスタッフをF社で抱えることになったのです。
二頭管理
なじみのスタッフの“引越転職”とはいえ、F社にとっては初めて持つ制作部門。そのまとめ役に抜擢されたSさんはというと、仕事上制作マンと接することはあっても、作業そのものの経験はありません。実際の制作作業の監督というより、指導力を買われて、新入りのスタッフをF社の社員として教育・管理してほしいという意味あいが強かったようです。
 そんなSさんにかわって、実際の現場を指揮するのは、Hさんという転職者のひとりでした。元の会社ではディレクション業務を担当しており、転職スタッフたちの中で最も顔が広く、キャリアもあります。年齢面でも仕事面でも信頼が厚く、HさんがF社に移ると決めたことで、
「Hさんについていきます」
 と、まとまった数のスタッフがF社に移ってきたという経緯もあったのです。
 部署内には、SさんはF社での上司として敬い、Hさんはクリエイターとして、また“身内”として慕う、という雰囲気が満ちていました。
 Sさんもこうした雰囲気を無理からぬことと理解し、いきなりF社風を強制することもないと鷹揚にかまえていました。Hさんも制作経験の無いSさんがスムーズに管理できるよう、彼を立て、転職スタッフとの間をうまく橋渡ししていこうとしていました。
 スムーズな滑り出しにみえた制作部の立ち上げ。しかし、スタッフの指導方法をめぐり、SさんとHさんは対立することになってしまうのです。

(→後編に続く)

pen2 講師経験から独自の指導メソッドを打ち立てようとするSさん。しかし現場を知るHさんには承諾できず……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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