転職失敗談2
指導と教育
自分なりの指導方針で、新しい部下たちを導こうとしたSさん。しかし部下たちから強い反発を招き……。(→前編はこちら
バックナンバー
一人前に
外注先のスタッフを吸収し、新たに制作部を設けることになった広告代理店F社。指導力を買われ制作部の責任者となったSさんですが、実務レベルでの管理は制作スタッフの中で最も実力とキャリアを持つHさんにまかせ、新体制をスタートさせました。
 SさんはF社の社員としての教育を最初に担当しましたが、1〜2ヶ月もすると中途採用組も職場になじんできます。また門外漢だったSさんの方も、制作という仕事に慣れてきました。
 そうなると元やり手塾講師のSさん、実務的リーダーであるHさんの指導方法に生ぬるさを感じ始めるようになったのです。
 Sさんは広告成果を特に重視していました。制作スタッフの中には、コンスタントに効果的な広告を作ることができる者もいましたが、中には当たり外れの大きい、作るものにクセのあるスタッフもいたのです。新人デザイナーB君もそのひとり。
 SさんはそのB君を見るうち、かつての講師魂に火がつきました。なんとかB君を“一人前”にしようと、あれこれと教育を始めたのです。例えば、他社の手がけた好例を参考にしろとか、一般受けする要素をもっと取り入れろ…などアドバイスしたり、資料を与えたり。
 ところがこの指導を聞きつけたHさんが、抗議に現れたのです。
センスと教育
「BにはBの個性があります。Sさんが参考にしろとおっしゃったものは、広告としては一流ですが、彼の持ち味とは違いすぎます」
「たしかに持ち味と合う仕事がくれば、彼の個性も活きてくるのだろうが、仕事である以上それを待っているわけにはいかない」
「しかし、今の指導ではかえって彼の個性をつぶしてしまいます」
「個性というが、広告である以上、あまりにも一般的な感覚からずれ過ぎているのは問題だ」
「ずれ過ぎていると思われた場合、どうされるんですか?」
「その場合は、一般的な感覚に矯正しなくてはならない」
「この世界、それぞれのセンスが勝負です。センスは教育も矯正もできません
 教育でセンスを磨かせようというSさんに対し、センスは生まれもってのものだと主張するHさんは真っ向から対立してしまったのです。
 Sさんはその後、スタッフ同士の勉強会を計画したり、当番を決めて制作業界の情報収集を担当させたりと、自分流の教育方針を貫こうとしました。
 しかし個別の行動を好むクリエイターたちにとって、こうしたSさん方式のやり方は窮屈で煙たいものでしかありませんでした。
 もともとHさんの主張を支持する気持ちが圧倒的に強かったスタッフたちは、表面上はSさんを立てていましたが、
「やっぱりこっちの人間じゃないから、分からないんだよ」
 とHさんと口を揃えて、聞き流してしまうようになります。
 結局、Sさんの管理は形ばかりとなり、後の人事異動で制作部門から外されてしまったのでした。
 ちなみに、騒動の引き金となった新人デザイナーB君ですが、F社への集団転職から半年も経たない間に「社風が合わない」といち早く辞めてしまったそうです。
サクセスポイント
今回はココが問題!
集団の転職
企業の吸収合併や、部門ごとの吸収などで、同じ職場にいたメンバーがまとまって別の企業に移るというケースがあります。同僚や上司とともに新たな環境に移るということは安心感もありますが、一方で経営母体がかわり、社風にも確実に変化が起こることを忘れてはいけません。
これでサクセス!
集団転職者のその後
集団の転職者は、転職先でそのまま一部門を形成することもありますが、新しい職場に早くなじませ、仕事を覚えさせるため、別の部門に分かれて所属させることも多く、結局は個別の評価が待っています。安心感のある転職と流されていては思わぬ仕事に直面する可能性もあります。また吸収合併などの場合、吸収される側の社員は、長い目で見れば結局退職していくことも多く、これらの点を踏まえ、吸収や合併といった折には客観的な判断が必要です。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
バックナンバー

▲ページのトップへ