転職失敗談2
公平な判断
公平な視点での採用を目指すA社では、社内の様々な部署の社員に選考の権限を与えていたのだが……。(→後編はこちら
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伝説の出来事
採用の決断を下す人物は、企業によってひとりとは限りません。
 A社ではその昔、中途採用者が大きな問題を起こし、A社ばかりか取引先にも多大な迷惑をかけた挙句に、入社2ヶ月で解雇という事件がありました。その事件を直接知る人も今では少なくなりましたが、噂と伝説だけは現役社員の間にささやかれています。
 この事件以来、A社では念には念を入れた選考体制で人材を採用するようになりました。書類選考では、まず条件に満たない人をザックリ切り捨てます。年齢は1歳でもオーバーしていればアウト、転職が2回目以上になる場合もアウト、未経験者はアウト……などなど。詳細な経歴を見ることなく、事務的に選別するのです。
 その後、公平を期すために3人の異なる立場の社員が、これはと思う履歴書を選び出します。そうして数通に絞り込まれた履歴書は、最後に人事の責任者によって、誰を面接に招くかの決断が下されるのです。履歴書を送れば即面接という企業に比べ、A社では呼び出しまではるかに時間がかかるのです。
 とりわけ時間がかかるのは、異なる立場の社員による履歴書選別の段階です。選別に当たっているのは採用部門のスタッフだけでなく、共に仕事をする部門や、ビジネスマン的見地から営業部門と、様々な部署に所属し、実務年数も違う社員たち。多方面から公平な立場でA社の社員としての適性を見るためのシステムなのです。
公平さの落とし穴
しかし、それぞれ本来の仕事の合間を縫っての作業となれば、忙しい立場にある社員はなにかと遅れがち。時間に追われて、目立つ経歴の人材をチョイスする傾向にあるようです。
 逆に時間的余裕のある、若い社員ならスムーズかといえば、直接接することが多い立場だけに、選考はなお複雑です。
「こんなすごい経歴の人がうちに落ち着くはずありませんよ」
「ここの社員に知り合いがいますが、皆プライドが高いですよ。扱いにくいと思いますけどね」
 自分のライバルになりそうな優秀な人材は、牽制して選から漏らしてしまうのです。
 そうした意見をまとめて、ようやく面接に招く人材を選び出せても、まだまだ慎重な選考は続きます。
 面接は応募者ひとりに対し、社員が4人以上。履歴書選抜とはまた違った社員たちが、ズラリと並んで質問を飛ばすのです。
 しかし専門分野外の社員も参加しているため、
「転職しようと思った理由は?」
「うちを選んだ理由は?」
 などの、ごくごく一般的な質問が飛び交いがち。
 しかも専門的な会話で盛り上がりすぎたり、専門用語を交えながらキャリアの説明をした応募者は、他部署の社員に
話の内容が分からない。自己満足な話し方」
 と酷評されて、不合格になってしまったこともありました。
「あの応募者のキャリアは欲しかったのに……うちの部署だけでジャッジさせてくれたら」
 こうした採用部門の恨みの声が、A社の採用体制を変えようと動き始めたのです。

(→後編に続く)

pen2 会社ぐるみの選考体制に疑問を抱いたKさんは、採用の権限を与えてほしいと、人事のトップに掛け合う……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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