転職失敗談2
公平な判断
公平な意見を尊重するあまり、現場で欲しい人材を採用できないという本末転倒なA社。Kさんは人事部に掛け合い、現場採用権を手に入れるのだが……。(→前編はこちら
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伝説と伝統の扉
採用体制を変えようと立ち上がったのが技術畑出身の管理職であるKさん。どうしても欲しいと願った人材を、今の採用体制の下で何人も逃してきた経験を持っています。まずは人事のキーパーソンに根回しをと意気込みましたが、
「そうは言っても、これは例の事件以降、絶対の原則だから……」
「言うほど簡単なことじゃないんだぞ。もしまた失敗したら、今度は採用した方も首がとびかねない。Kはあの事件を生で知らないから。あのときの混乱は本当にひどかった」
 伝説と伝統の扉は厚く、誰も今の採用方法を改めようとは言い出しません。しかしKさんも後には引かず、
「このままでは会社員として中庸な人物は採用できるかもしれませんが、突出した能力を持った人材は集められません。現状を見てください。採用に慎重になるあまり、突出した人材を無意識のうちに遠ざけていませんか」
 Kさんの主張は現在の採用方法の痛いところをついた形となり、鉄壁の伝統に少しずつ突破口を作っていきます。
「多少バランスを欠いた人材でも、適材適所で能力を伸ばした方が、周囲への刺激も含めて良い方向にすすむはずです。技術職に限ってでも、ぜひ現場採用の実施を」
 この揺さぶりが効いて、とうとう条件付きで現場採用の許可をもらうことに成功したのでした。
「あくまでもKの部署だけで、今度の採用に限り、試験的に。だが、いきなり正社員採用は危険すぎる。待遇はアルバイトから。仕事ぶりや責任感を見て、本採用かどうかを決めていこう」
 しかしKさんが必要としている人材は即戦力レベル。アルバイト待遇で正社員の即戦力の人材を集めるのは至難の業です。条件の緩和を求めてはみましたが、
「これだけは譲れない。考えてもみろ、今度採用したやつがまた不祥事やトラブルを起こしたら、中途採用自体が無くなりかねない。これが最大の譲歩だ」
 結局、即戦力希望、本採用前提、不定期の試用期間あり、アルバイト待遇、日給換算という条件に、双方落ち着いたのでした。
哀しい温度差
「この日給でこの待遇は、専門学校卒のフリーターでないと来ないっすよ」
 即戦力を望んでいたKさんでしたが、部下にも苦笑いされ、採用活動は前途多難。
 それでも強引に掛け合って勝ち取った現場採用の権利です。なんとか使わないことには、後に続かず消えてしまいかねません。
 Kさんは、当初予定していた即戦力採用をあきらめ、若手の専門教育をうけた、伸びそうな人材にターゲットを変えることに。結果、専門学校卒の第二新卒のP君を採用します。
「いろいろ社内の規定があって、今はアルバイトの待遇だけど、ゆくゆくはうちの正社員になってもらうから、そのつもりでがんばって欲しい」
 Kさんはそう励まして彼を迎え入れたものの、最初からKさんとP君の間には温度差がありました。
 そこそこの待遇でそこそこの仕事をしたがるP君と、今後の採用のことを考え、なんとか正社員に引き上げたいKさん。何も知らない他部署の社員たちはP君のことを
「お、新しく入ったバイト君?」
 などと呼び、P君も素直に答えて雑談などしていると、後でKさんがチクリとひとこと。
「P君、君はただのバイトじゃないんだから。正社員候補なんだから、もっと身を入れてもらわないと。後に続く者の手本になってほしいんだよ」
「でも僕、まだただのバイトっすから。社員になったら色々責任もあるんでしょうけど……いつ社員になれるかも分からないし……」
「いや、君には何が何でも正社員になってもらわないと困るんだ!そのためには正社員並に仕事が出来るってことをアピールしなくちゃ!」
 そういってKさんの要求はどんどんエスカレートしていったのです。
 朝礼・当番の参加、正社員並のノルマに深夜の残業。当然P君は
「残業しても残業代つかないのに。俺、バイトなのに
 と不満タラタラ。そして、そんなP君をKさんは歯がゆく思い、さらにシゴくという悪循環。
 ある日、激励の意味を込め、KさんがP君にこんな言葉をかけました。
開拓者ってのはいつも人一倍大変なんだ!でもその代わり、人一倍大きな実りが待ってるんだ。がんばれ!」
「Kさんはバイトから正社員になるのは開拓者、っていいますけど、この会社にはもう正社員がごろごろいるじゃないですか。それって開拓者とはいいませんよね」
 僕はただのバイトでいいんです、とP君は他の気楽な仕事を探しにいってしまいました。
 この一件で、A社の中途採用体制はまた振り出しに戻ったとか。
サクセスポイント
今回はココが問題!
条件検索の落とし穴
最近の求人情報は職種や条件の検索が容易で、誰もが簡単に希望の条件に沿った求人情報を手に入れることが出来ます。しかし条件検索だけで望む情報を得られたと思うのは早合点。箇条書きにされた採用条件だけで自分に合っていると思いこまず、応募の前に具体的な勤務のシミュレーションが必要。
これでサクセス!
採用形態の多様化
求人情報が手に入れやすくなった反面、企業側もリスク回避の点からいろいろな勤務形態を導入してきました。試用期間やアルバイト、契約社員など。とはいえ、勤務の形態が細かく変化しても、基本的に中途採用者に望まれることは今も昔も“即戦力”。待遇から仕事レベルを推し量らず、どんな条件で、どんな能力を期待されているのか、面接での確認は不可欠です。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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