転職失敗談2
食の恨みは……
A社の社員食堂は、フレンチのシェフが包丁をふるう豪華さ。社員の夜食から接待までもフォローすると聞いて、新入社員H君は恵まれた勤務環境に胸ふくらませていたのだが……。(→後編はこちら
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ゴージャス社食
あるフードチェーンの本社には、実際の店舗厨房がそっくりそのまま入っているフロアがあるとか。実際にそこで販売がされているわけではなく、また商品開発が行われている業務用厨房とも別。一種のショールーム的存在のようです。
 こうした飲食業ならずとも、最近、ショールームや大切な顧客の接待の為にと、社内に豪華なレスト・スペースを設ける企業が目立つようになってきました。

 H君が営業マンとして勤務するIT関連企業A社は、就職活動の時に惚れ込んで入社がかなった、憧れの企業。
 もともと首都圏の出身だったH君ですが、学んだのは地方国立大。就職時にはぜひとも“返り咲き”をと、夜行バスや新幹線を駆使し、東京での就職活動を重ねました。
 そんな中、ひときわ輝いて見えたのがA社。セミナーに参加したところ、担当者は一通りの説明を終えると、学生たちを率いてトップフロアへ。案内されたのはしゃれたレストランといった内装の部屋。
「当社の社員食堂です。時間的に不規則な勤務になりがちな当社では、社員の健康管理を考え、夜食が食べられるように夜も営業しています」
 より勤務に励んでもらうため、と前置きして、人事担当者はさらに驚くべき説明を続けました。
「フレンチや和食のシェフに交代で詰めてもらっています。味は保証付きですから、得意先の接待に使う社員も多いようです」
 その日も簡単なビュッフェの食事を用意したので、学生諸君には味わって帰って欲しいと締めくくりました。
 会場は、緊張が解けた学生たちの歓喜の声でいっぱいに。
 しかし残業続きで会社に出前を取る先輩たちの話を聞いていたH君は、この豪華さに戸惑いも覚えます。今まで見聞きしてきた職場では、良くても夜食の出前を企業がとってくれるとか、長時間になると残業代に多少色が付くといった程度。社内にレストランレベルの食堂を作るのは、少々バブリーすぎる印象を受けたのです。
雲の上の真実
そんな心配を見透かしたかのように、人事担当者は
「これだけの設備を投資しているということは、社員にも責任を果たしてもらわなければいけません。仕事もそれなりに激務ということですよ。うちで働くということは覚悟も必要です(笑)」
 冗談めかしながらも釘をさし、フォローを入れました。
 その言葉に完全に安心したわけではありませんが、やはり恵まれた環境はあるに超したことはありません。さらに企業研究の結果もあり、H君はA社を第一志望に。そして幸運にも内定を獲得したのでした。
 こうしてH君は、快適な職場環境に胸ふくらませて、入社の日を迎えます。
 ところが、入社後しばらくは社外や支社での研修期間。数ヶ月後、ようやく営業部に配属になり本社に戻ってくることが出来たのです。
 そして、ついに本社勤務での初めてのお昼ご飯。最高階にある社員食堂へ急ごうとするH君に、先輩社員が声をかけました。
「H、コンビニ行くなら俺にも弁当なー」
「あの、僕、社食行くんですけど」
「社食?オマエじゃまだダメだよ。あそこは雲上人の行くとこだ」
 と笑うのです。社員食堂なのに、誰もが入れないのかと質問するH君に、先輩はコンビニ弁当をつつきながら、噛んで含めるように話してくれました。
 レストラン顔負けのゴージャスな社員食堂は、社長入魂のプロパガンダ。自然と利用者に優先順位が生まれています。まず最優先は社長が使うとき。次が役員クラスとその接待。次にトップセールスを争う営業マンの接待。接待以外の普段の食事タイム・夜食タイムもこの序列が守られており、
「まだ受注のひとつも取れない新人には、縁のないとこだ」
 目の前にニンジンを下げられたような気持ちのH君に、さらに追い打ちをかけます。
「就職説明会の時、人事が言わなかったか?あそこを使えるのは激務の人間だけだって。ぶっちゃけて言えば、稼げる人間ってことなんだよ」

(→後編に続く)

pen2 憧れのオフィスで、人もうらやむ会社生活。新人営業マンが手に入れるには、超えねばならないハードルは高く……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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