転職失敗談2
企業の採用力
思うように経験者を採用できないアパレル系企業H社。社員のコネクションで履歴書を集めようとするが……。(→後編はこちら
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怒る上司
「うちの上司なんて体育会系で気分屋だろ? 忙しい時に急かすとどやしつけられるし、頼んだことは忘れちゃう。それを指摘すれば怒り狂って機嫌が悪い。ほんと、やりにくいよ。それが嫌で新人は1年ともたないし。悪循環だよ」
アパレル系企業H社の社員Aさんは、後輩に向かって不満げに漏らしていました。H社の中途採用に一役買っていたAさん。といっても彼の本業は営業部の主任なのです。

H社は、正直いって採用が下手な企業でした。今までは新卒採用が主で、経験者採用は社長や役員のコネクションを使った引き抜きで補充していたのです。
しかし最近は、その方法でも思うような採用が出来ず、経営陣も苛立つ一方。
本来なら人事部に一任すべき業務、と下に投げてはみたものの、今までの経緯からH社の人事は採用力に乏しく、なかなか結果に結びつきません。アピールの仕方を間違えて、希望外の人材ばかり応募してきたり、ねらっていた人材が同業他社にも応募していて、結局そちらに取られてしまったり……。
「結局は人だよ、人脈で探すしかない」
焦れた社長の命令で、再びコネクションを使って人材を集めることに。今度は社内の役職者全員に枠を広げて
「一人最低一枚の履歴書を上げること」
なる、“ノルマ”まで設定されてしまったのです。

営業部主任のAさんも大学時代の人脈をあたって、ようやく面接に来てくれそうな人をひとり確保したのでした。
ところがこのことを上司F氏に報告したところ、タイミングが悪かったのか、
「後にしてくれないかな、今忙しいって見たらわかるだろ!」
と一喝されてしまったのです。F氏はどちらかというと気の短い性格。それだけに仕事をまとめる手腕もエネルギッシュでスピーディーですが、逆にテンポを乱されると頭に血が上る性格なのです。それを知っていたAさん、
「とりあえず履歴書を郵送させますので、届いたら上に上げて下さい」
と言うにとどめ、確保した大学の後輩B君へ、上司宛に履歴書を送るよう伝えたのでした。
忘れられた履歴書
それから約10日後。その後輩B君から、Aさんに電話がかかってきました。
「Aさん、こないだの採用の話、ダメだったんですか?どうなんですか?履歴書送ったっきり、何の連絡も無いんですけど」
てっきり連絡が入っているとばかり思っていたAさんはビックリ。あわててF氏に聞きに行ったところ、
「履歴書?そんなもん届いて……あっ!スマン、受け取ってそのまま忘れてた!」
どうやら仕事に熱中するあまり、書類の中に紛れていたようです。F氏のデスクはいつも書類の山。
「普段の作業とちがうからさ、つい忘れてて。すまんな。他のヤツから上がってきた履歴書もあるから、一緒にまとめて人事に渡しとくよ」
Aさんも、B君を誘った手前もあるため、F氏の対応には一言いいたい気分。しかし機嫌を損ねると後々面倒と、F氏の前では言いたい言葉を飲み込みました。そのかわり、
「Bに全部話して、うちには入らない方がいいって言ってやろう」
大事な書類も紛失しかねない、いい加減な職場だと、ぶちまけてやる……と受話器を握ったのでした。
連絡が遅れたのは、途中で書類が止まっていたからと、話し始めたAさん。ところが
「よかったぁ!じゃあ、ダメだった訳じゃないんですね?」
途中からB君の声は弾みはじめ、
「僕、H社を本命に絞って頑張ろうかと思ってるんです。他にも会社回るつもりにしてたんですけど、やっぱAさんの紹介もあるし、ちょっとでも有利なところに力いれようかなと思って」
とノリノリ。
「ま、まだ採用されるって決まったわけじゃないし……役職者がみんな履歴書集めてるから、もっといいコネのやつもわんさといるし……あんまり期待しない方がいいよ」
消極的になだめるAさん。しかしB君の気持ちは高揚したまま。
「でもAさんが誘ってくれた時の話で決めてたんです。今の仕事よりずっと面白そうだから、本気出してみようって」
あれはノルマのために必死になったセールストークとも言えず、
「うちの職場だってつまらないことはあるよ……。あんまり気張りすぎずにな」
と電話を切るはめになってしまいました。

(→後編に続く)

pen2 社員の人脈で集めた履歴書。面接のスケジュールが組まれていくのだが、若手主任Aさんが紹介したB君の順番はぐっと遅く……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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