転職失敗談2
坊ちゃんの冒険
店舗閉鎖で配置換えになってしまったKさん。転職を急ぐ背景にはある理由が……。(→後編はこちら
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期限は五ヶ月
できるだけ早く、できれば今と同じレベルの仕事と収入で」
 人材バンク、ハローワークなどを片っ端からあたり、こう聞き回っていたのは、流通系企業A社に勤務するKさん。
 Kさんの勤務先は最近、業績悪化を理由に経営陣が一新されたばかり。同時にいくつかの販売店の閉鎖も決定されました。その閉鎖リストの中に、Kさんの職場も含まれていたのです。
「従業員は他の店舗や支社に吸収されることになったんですが……やはりそこのプロパーの従業員でないとやりにくくて……それに部署も仕事内容も希望通りにはいかないようで……」
 それならいっそ転職、と決めたものの、何分時間がありませんでした。
「閉鎖は5ヶ月後なんです。ですからそのころまでには新しい会社に移っておきたいんです。それが無理なら内定だけでも」
 人材バンクの理想的な活用方法は、『良い企業があったら連絡を』と、時間をかけて募集を待ち、見極めるスタイル。Kさんのように期限付きとなると、入ってくる情報も限定されてしまいます。
「できるだけ良いお仕事をご紹介したいと思いますが、時間優先ということですと、条件等の変更もお願いしなくてはならないかもしれません。リストラというわけではないようですし、閉鎖後も勤務を続けながら、良い条件の募集を待つ方がいいのではないですか?」
 コンサルタントはあえて期限にこだわる理由を聞いてきました。
「たしかに会社に残りたい人は残れるんです。でも、しばらくは配送業務に回されそうなんです」
 配送センターは他府県の山間部にあり、毎日の通勤だけでもかなり大変なのだと、Kさんは説明しました。
「それに、今まで配送に回された人間が、本社の事務方に直ったケースはほとんど無くて……」
 行ったきり、になる可能性が高いのだとも。
 それを聞いたコンサルタント。一応は納得しながらも、
「転職を視野に入れているなら同じことなのでは? 人生を左右する問題なのですし、目先の仕事で無理に期限を決めなくても
 と割り切れない様子です。
 それもそのはず、Kさんが転職を焦るのには、勤務地以外の理由があったのです。
大いなる実家
「実は……配送センター行きがばれたら、家族が僕を実家に呼び戻す可能性があるもんで……」
 Kさんの実家は山林地主として、その土地では知られた家でした。Kさんは三人きょうだいの末っ子。上二人が姉だったこともあり、幼い頃から“跡取り”として遇されていました。
 しかし当の本人がこれに反発。反対を押し切って大学進学と同時に家を出たのでした。
「うちの家族は昔から僕が外で働くことを嫌がっていまして……高校に上がると周囲はバイトをはじめたりしますよね。でもうちでは絶対禁止。『うちの仕事を手伝え。よそで働く必要は無い』『ろくに小遣いもやっていないと思われる』って……」
 そうした家風への反発もあり、Kさんは大学を卒業するとA社に就職。しかし諦めきれない家族は、いまだ事あるごとに
「Kの家の人間が客商売だなんて……いつまでも続ける仕事じゃない。早く帰ってこい」
 を連発しているとか。
 そのたびにKさんはA社の優れた点、仕事の面白さなどを説明し、理解を求めてきたのですが、
「そんなに仕事仕事って……うまくこき使われてるだけじゃないのか? 所詮、よその会社だ。倒れたって責任とってくれないぞ」
 と水を差す。かといって余裕のあるところを見せれば、
「そんなに楽してて景気の方は大丈夫なのか? オマエの会社……」
 と縁起でもない心配をする。
 とはいえ、今度ばかりはその懸念が的中してしまったわけですが、
「経営陣が変わった時は業界でもニュースになりましたからね。店舗閉鎖のニュースもそのうち親の耳に入るでしょう。で、配送センター行きになったと知れれば、また一騒動ですよ。『Kの家の人間が……』って。ですから早く進路を決めておきたいんです」

(→後編に続く)

pen2 店舗閉鎖のニュースがとうとう両親・祖父母の耳に。強硬に帰郷を迫られたKさんは……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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