転職失敗談2
坊ちゃんの冒険
異動前に転職しようと奮闘するKさん。しかし内定には結びつかず、期限の日を迎えてしまい……。(→前編はこちら
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守りたいキャリア
 Kさんの身の上話を聞き、ようやく納得したコンサルタント。今ある案件の中から最速で紹介できる企業を探すと約束してくれました。
 しかし焦っているだけに転職活動は難航。条件に合う募集が無かったり、面接に行っても厳しいジャッジを下されたり。
「やはり、閉鎖店舗からの転職は難しいのでしょうか……」
 Kさんの勤務先が経営不振であることは、ニュースなどで業界中に知られた事実。その閉鎖予定店舗からの転職というのは、あまり印象が良くないようなのです。また、配置換えの期限が近づき焦れ始めているKさんの姿も、いかにも余裕がなく映るのかもしれません。
 そんなKさんに、コンサルタントは全く逆のアドバイスを試みました。
「ご実家を継がれるという選択肢はまったく無いのでしょうか。一度そのあたりも含めて、ゆっくり考えてみてはどうでしょう」
 実家の家業が大きければ大きいほど、最終的にそこへ戻る転職者は多く、採用側もその点を考慮しているのかもしれないと言うのです。
「たしかに、長く続いた家業ですので、僕ひとりが我がままを言ってるように見えるかもしれません。でも今の仕事は好きですし、やっぱり実家に帰ることは考えられません。田舎に戻れば、周囲はK家の坊ちゃんだのボンボンだのっていう目で見ます。どんどん世間が狭まっていくと思うんですよ。実際、僕の家族はあの土地しか知らずに今まで来ていますし……」
 せっかく一人で築いてきたキャリアだから、大切にしたいとKさんは改めて口にします。
「ですから、事を荒立てる前に、なんとか新しい会社を決めたいんです」
 しかしその願いもむなしく、Kさんは五ヶ月の間に転職先を決められず、配送センターに配置換えになってしまったのです。
坊ちゃんの成長
「ご無沙汰してます」
 Kさんが久々に人材紹介会社に顔を出したのは、配置換えからひと月後のこと。
 配送センターに行く直前まで転職先を探し、間に合わないと分かった時も、
「向こうでも仕事探しは続けます。引き続き、いい仕事があったらご連絡下さい」
 と思い詰めた表情で去っていったKさん。しかしこの日は心なしか表情も穏やか。雰囲気にも、張り詰めたものが無くなっていました。
 そして、近くまで来たついでと前置きし、Kさんが口にしたのは、意外な言葉でした。
「僕のエントリーですが、取り消して頂こうと思いまして。もう必要無くなったので」
「それはご丁寧に……新しいお仕事がお決まりになったんですか?」
「いえ、転職そのものも無くなったんです」
 Kさんの配送センター行きは、案の定実家の家族の耳にも届き、以来「帰ってこい」と矢の催促が始まりました。中でも急先鋒に立ったのは、齢90才も近いという祖母。
「Kの家の人間が荷物を運んだりしてるの? 早く呼び戻しなさい。お金の為にそこまでするなら、仕送りしてやるのが親ってもんです。早く辞めさせなさい!」
 と父親に迫ったとか……。
 この一言が、家族の前で気弱になっていたKさんを刺激。
「父も母も祖父母も、会社で働いた経験がないんです。代々家業を継いで土地から出ずに。だから言ってやったんです。『お山の大将が分かったような口をきくな! こっちは一生の仕事と思ってやってるんだ。小遣い稼ぎじゃないんだぞ!』って」
 祖母の「仕送り」発言は家族の間でも、さすがに行き過ぎだと思われていたようです。
「おばあちゃん、昔とは違うんだから、いい年した男に仕送りなんて……」
「うちも楽じゃないんですから、そんなお金、右から左に出てきませんよ」
 と喧々囂々の騒ぎに展開。その絶妙のタイミングでKさんの怒りが爆発し、家族の口をつぐませることに成功したのです。
「またほとぼりが冷めたら、『帰ってこい』コールが始まると思いますが。とりあえずは落ち着きました。それと……実は恥ずかしながら、配送センターに行って流通の仕事というものが分かったような気がするんです。本社で数字を左右していたころとは違った角度で仕事を見られますから。なによりストレスが少ないせいか、人間関係が良くて。しばらくはこのまま働きたいと思ってます」
 と語るKさん。追われるように仕事を求めた頃には無かった落ち着きが生まれていました。
サクセスポイント
今回はココが問題!
転職と家族
 特に既婚者の場合、転職には家族の理解が不可欠。家族が反対の場合でも、じっくりと話し合いの時間を持ち、説得に努めたことで、相手の理解を得られただけでなく、自分自身の転職動機の整理・再確認に役立ったという人もいます。
これでサクセス!
家族の希望
 逆を言えば家族を説得できないようでは、後のステップも困難になります。面接現場や待遇交渉の場で「家族が反対するので」「家族の希望で」等の言葉を口にすれば、「親離れが出来ていない」「あとで妻(夫)の反対が出るかも」といったマイナスイメージを持たれることも。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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