転職失敗談2
二つの指導法
未経験からの中途採用が多いA社では、新人指導は現場に一任されていた。チームリーダーS氏のポリシーは「習うより慣れろ」。しかし次第に新人世代の気質に合わなくなり、代わって新リーダーMさんが指導するようになったが……。(→後編はこちら
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ガンコ親父の指導
 メーカーA社の販促企画チームリーダー、S氏は三十代後半。数十人の部下をまとめる立場にあります。
 A社は中途採用が盛んな企業で、未経験者やアルバイトからの採用にも積極的でした。
 それだけに業界キャリア数年という即戦力人員から、ほとんど学生同様の第二新卒までと、採用される新人のレベルにもばらつきがあったのです。
 しかしA社では特に社員教育の期間は設けず、OJTや現場に一任する形でその都度教え込むことが通常でした。
 S氏は「仕事は自分で作る、先輩のテクニックを盗んで学ぶ」というポリシーの持ち主で、部下にもくどくど言わず、まずやらせてみる指導をしてきました。
 行き詰まった部下からの質問も受けはしますが、自分で考えさせることが大事と、
「いいと思うならいい、悪いと思うなら考えろ」
 と突き放すことがほとんど。下についた社員の中には、
「Sさんの考えてることが分からない。何がいいのか悪いのか」
 と不満に思う者も少なくありませんでした。
 さらに、いわゆる「指示待ち族」と命名された、従順だけども指示にない事はしない、知らないという世代が増える頃になると、S氏の指導方法には行き詰まりが見えてきます。
「どうしてですか? どこが悪いのかちゃんと言ってくださいよ
 販促プランに3回目の駄目出しをされたある新人が、とうとう切れてS氏に食ってかかりました。
「だから全部だ。こんなもの、ここがあそこがって、いちいち言ってられるか!
 S氏も頭に血がのぼり、言葉を選んでいる余裕を失います。
「Sさんの話は意味がわかりません」
 あきれたように口走る新人を前に、思わず机の上にあった灰皿をグッと握りしめたS氏。
 灰皿が宙を舞うことはなかったものの、その気迫にのまれた新人はやり直しを受け入れ、どうにかその場は収まったのでした。
褒めて伸ばす
 しかしS氏の行動は早速噂となって社内をかけめぐりました。
 S氏をよく知る先輩社員の間からは
「でも結局投げなかったんだろ? あの人も丸くなったもんだなぁ。昔だったら床に叩きつけてたよ」
「そうそう。その新人、蹴りの一つも入ってただろうなぁ」
 などと驚きの意見が飛び出しましたが、20代の若手社員たちは
「社内暴力だなんて」
「あんなに切れやすいんじゃ、怖くて何も聞けない」
 などと非難囂々(ごうごう)。あげく例の新人は灰皿事件に懲りてさっさと退職してしまったのです。
 さすがのS氏も、次第にやりにくさを感じるようになってきます。
 ちょうどそのころ社内人事に動きがあり、S氏はマネージャー格に、そしてS氏の部下でMさんという30歳の社員が新たにリーダーへと昇格しました。
 これを機に、S氏は新人の直接指導をMさんにまかせることにしたのです。
 MさんはS氏とは逆に、
「これと、これをやって手が空いたらこのデータ打ち込んで、それが終わりそうになったら××さん手伝って」
 などと、先の先までこまやかに指示を出すタイプ。
 まったくの未経験者で転職してくる新人にも、
「今日はこの業界誌のバックナンバーを整理して。整理がてらパラパラでいいから目を通してみて。空いてる時間があったら、この本も見てみて」
 と業界への導入のさらに糸口までたらしてあげる親切ぶり。
 それまでのチームでは、一つの販促企画に対し、社員が悩んだり壁にぶつかったりしている姿がちょくちょく見られていました。立ち上がって歩き回ったり、インスピレーションを得ようと積み上げた雑誌をパラパラとめくっていたり。タバコをくわえて天井を見つめていたり……。
 誰かに聞くということが出来なかったため、みんな自分で解決しようと必死だったのです。
 しかしMさんが指導するようになってから、手の止まった社員を見る機会が激減しました。みな机やパソコンの前に座り、常に何か作業している状態です。
 もちろん企画の駄目出しに対する質問にも、どこが悪いのかを指摘するだけでなく、必ず良い点を褒め、やる気を削がないよう気をつけてもいました。
 S氏はこうしたMさんの指導方法が時代に沿ったものだと思う一方で、やはり過保護すぎるように思えてなりません。
「これでは自力で生み出す力が育たない。いつまでも人を頼ってしまう
 ところがMさんの指導法は、S氏の思いもつかぬところでつまずきを見せるのです。

(→後編に続く)

pen2 Mさんの指導のもと、新人たちは自主性に弱さはあるものの、スキルは確実にアップしていった。しかしひとたびトラブルが発生すると思いも寄らぬ弱点が……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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