転職失敗談2
二つの指導法
S氏と対照的なMさんのこまやかな指導方法に、指示待ち世代の新人たちもテキパキと作業を進める。しかしある時Mさんが、部下を指して言った一言がチームに波紋を広げる……。(→前編はこちら
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漏れた爆弾発言
 ことこまかに指示を出すMさんの部下指導法に、S氏は内心不満を押さえきれません。ある時とうとうそれが爆発してしまいます。
「この広告のラフはどうなってる?」
 Mさんが席を外していたため、直接の担当者に質問したのです。
「あ、それはちょっとわかんないんで、Mさんが帰ってこないと確認とれません」
「わかんないって……オマエの仕事だろう?」
「でも、自分じゃわかんないです。そこはMさんの指示をまだもらってないとこなんで」
「じゃあ、オマエはMが右向けって言ったら、ずっと右向くのか! ちょっとは自分で頭働かせろ!」
 あまりの剣幕に部下はびっくり。Mさんは声を荒らげることはもちろん、厳しく叱責することさえ一度もなく、驚くような失敗があっても、いつでも理知的に言葉を尽くして諭してきたのです。
 ですからS氏によって初めて雷を落とされた部下たちは、
「Sさんて、普段なんにも言わないけど、結構キレる人なんだ」
「びっくり〜」
 と騒然。怒りさめやらぬS氏は、その後デスクに戻ったMさんを呼びつけ、二人で別室に籠ったのでした。
 ことは自分たちに関わるらしいと、落ち着かないチームメンバーたち。そのうちの一人が、たまたまその部屋の前を通りかかったとき、抗弁するMさんのこんな言葉をキャッチしてしまったのです。
「あいつらは、いわば“兵隊”なんですよ。だからきちんと指示を出してやることが……」
 この発言がチームメンバーの間に知れ渡ってしまいました。
「今どき“兵隊”だなんて……いったいいつの時代の人?」
「Mさんの考え方は古すぎてゾッとする」
 中にはMさんの擁護派もいましたが、それ以上に衝撃を受けた部下の方が多く、さらには
「前からMさんの指示の仕方は、子供を相手にしてるようなところがあった。親切なんだけど、自分以外の誰も信用してないって感じがする」
 という冷えきった見解まで飛び出し、チーム内にギクシャクした雰囲気が生まれてしまったのです。
「指示待ち世代」の終わり
 幸いなことに、A社は中途採用が盛んなせいで、スタッフの入れ替わりも活発。Mさんのチームにも次々と新しい採用者が入ってきて、ほどなくギクシャクした空気もほぐれていきました。
 一度はS氏とぶつかりあったMさんでしたが、中途採用者は未経験で若い層が多いため、相変わらず新人指導を担当。ことこまかな指導は、やはり現場では役に立っていたのです。
 ところが、ある一定の年齢以下の若手社員に、Mさんの指導法が効果を発揮しなくなってしまうのです。
 問題の相手は若干22歳のT君。ちなみにこの業界はまったくの初心者。
 いつものように、これをして、次にこれを……とMさんが指示を出したところ、
「どうして、これとこれなんですか? 直接の仕事と関係ないように思えるのですが」
 とか、
「僕は企画立案がしたくて入ったんです。これでは約束が違います
 など、ズバズバと反論するのです。
「いや、まずはこの業界の雰囲気とかを知っておかないと……」
「そういうことは、入社前に情報収集しています。はやく企画を立てさせて下さい」
 と逆にせかす有様。
 S氏はじめ一部社員には一瞬“気骨のある新人”と評価した人もいたようですが、それではと試しに任せてみると、やはり基本がなっていません。ベーシックな知識の欠如がモロに出てしまうのです。そこを指摘すると、
「それは、Mさんと僕の視点の違いだと思います。話せば解決すると思いますから、ちょっとお時間いただけますか」
 と非を認めず、やたらと論破したがるのです。
 これにはさすがのMさんも手を焼いている様子。後で別の部下に
「最近の新人は、やりたい仕事が出来れば収入にはこだわらないって聞いててさ、いい傾向だと思ってたんだよ。でも、裏を返せば興味の無い作業はまったくやりたがらないってことなんだよな。ひとつひとつ納得しないと仕事しないんだもん。なにかといえば『話し合いましょう』だから、時間がかかって仕方ない
 と憤懣やるかたない様子で漏らしていたとか。
 指示待ち世代から次の世代へ。Mさんもやりにくさを感じはじめ、そろそろ指導担当も世代交代の予感です。
サクセスポイント
今回はココが問題!
転職者の研修
 転職時期が一定でない中途採用者には、基本的に新人研修は期待できません。ほとんどは現場の采配にまかされているのが実情。その上、現場社員の多くは、中途採用者をうまく使える自信が無いとこぼしがちです。
 ですから転職者は、能動的に動くことがまず重要になってきます。
これでサクセス!
転職者が期待される事
 まず仕事を覚えること。自分から動いてでも仕事をモノにすること。次に周囲となじむこと。その上で新しい結果を出すこと。ここまでやれば、企業は新しい人材を採用したことに満足します。
 また、新卒シーズンと重なる未経験者の場合は、新人研修に参加させられることもあります。それこそチャンス。仕事の基本はもちろん、社内の雰囲気をつかんだり、人脈を作れたりと得るものがあるのです。「新入社員と同じか」などとクサらずに。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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