転職失敗談2
先人の轍
「未経験者歓迎」「現場教育あり」の言葉を頼りに、DTPデザイナーに転職したM君。歓迎する上司と打って変わって、現場の社員たちは冷ややかで……。(→後編はこちら
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冷ややかな同僚たち
 DTPデザイナーを目指し、未経験から内定を勝ち取ったM君。転職先は主に印刷物のレイアウト・版下などを手がける制作事務所でした。
 募集要項にも「未経験者歓迎」とあり、さらに面接の対応をした社員も、
「多少の経験よりもやる気とセンスを買おうと思ってます。技術は教えれば身に付くけど、センスは持ってるものだからね。現場に入れば社員も指導しますが、そのぶん最初は正社員と同じ待遇とはいかないかもしれない。そこは仕事ぶりを見て判断しましょう」
 とM君が未経験者であることを認識の上、採用の運びとなったのです。
 ところが、いざ現場に入ってみると、周囲の反応は打って変わって冷ややか。
 挨拶ぐらいはかわすものの、肝心の技術面の指導については、本を一冊渡され、それを読んで覚えるようにと言われてしまいます。
 M君にしても、大卒新人ではなし、手取り足取りの懇切丁寧な指導を期待していた訳ではありません。
 が、たまに分からない事があって周囲の社員に質問しても、
「そこは、それ、自分で判断して。臨機応変にやってね」
 と軽くいなされ、他の社員に聞いても、
「私はそのソフトあんまり使わないから……」
 たまに親切な人がいても
「それはあの本にやり方書いてあったから、それ見たらいいよ」
 とまた別の本を渡されるといった具合。
 暗に質問されるのを避けている様子が感じられ、軽くショックを受けるM君。しかしそのままでは引き下がりません。
「結局は自分で覚えろってことか。話は違うが、それならそれで、何が何でも一人で覚えてやる」
 とファイトを燃やし、独学で技術を習得していったのです。
謎の先人
「どう? しっかりやってるか?」
 ひと月ほどたったある日、部門長にあたるAリーダーがフラリとM君の詰める現場にやってきました。
 Aリーダーこそ、M君と面接し、採用を決定した人物。それだけにその後が心配だった様子です。
 M君の作業を覗き込んだところ、思ったほどの出来ではなかったのか、
「うーん、こんなのでは、まだまだクライアントから金はとれないぞ。ちゃんと教わってるか? もっと積極的に自分からも聞いて。やる気見せてくれよ」
 さんざん檄を飛ばして去っていきました。
「いったい誰が教えてくれるっていうんだよ。一人で無理矢理やる気を出してやってるのに!」
 声に出せない思いを抱え、一人唇を噛むM君。
 その様子を見ていたある同僚がつぶやきます。
「Aリーダー、前とはえらい違いだよなあ」
 それをきっかけに、室内には妙に湿った笑いが漏れたのでした。

 その夜、残業して手直しをしているM君のところに、先輩社員Bさんがやってきました。
「一人でがんばってるな。俺たちも自分の仕事で手いっぱいで、なかなか見てやる時間がなくて、悪いとは思ってたんだよ……。M君は未経験で、Aさんから何も教わってなかったみたいだし……」
 怪訝な様子のM君をBさんは休憩に誘い、喫煙室でポツポツと話し始めました。
「実は、M君の前にひとり、DTPデザイナーとして採用したことがあるんだ。その子っていうのが、この業界のこと、なんにも知らない若い女の子で……」

(→後編に続く)

pen2 話とは違う周囲の対応に怒るM君。その秘密は前任の女性転職者にあった……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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