転職失敗談2
先人の轍
同僚たちの冷ややかな態度に面食らうM君。孤軍奮闘するが、周囲の反応は……。(→前編はこちら
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前任者の正体
「M君の前に採用した若い女の子っていうのが、全くの素人。バイト感覚で面接にきてたような子で、今から思えば本当にこの仕事に興味があったのかどうかも怪しい」
「なんでそんな人を採ったんですか?」
「Aリーダーが強烈に推薦したんだよ。最初俺たちはすぐに使える経験者がいいっていったんだけど、いろんな問題で折り合いがつかなくて。じゃあ未経験でもやる気のある子なら、って折れたら、Aリーダーがその中でも一番若い、一番かわいい子を選んだんだ」
「分かりやすいですね」
「現場に入れたらキツくてすぐ辞めるって、みんな反対したんだけど……Aリーダーが『俺が教える』って押し切って採用して……」
 事実、Aリーダーは彼女に手取り足取り仕事を教え込むだけでなく、贔屓(ひいき)ともとれる接し方をしていたと言うのです。
 予想外のトラブルで多くの社員が深夜まで駆り出され、仕事を割り振られていた時にも、一人だけ定時帰宅を許したり、規定の昇給ペースを無視して給料をアップさせたり。
 その結果、先に入った新人を追い抜いてしまい、その子がすっかりヘソを曲げ、辞める辞めないで揉めたこともありました。彼女一人が入った事で、周囲の社員は振り回されっぱなしだったのです。
 さらに当の彼女は、Aリーダーの熱心さに困惑したのか、職場になじめなかったのか、
「仕事を覚えたとたん、うちを踏み台にして、さっさと転職しちゃったんだ」
 ほとんど戦力にならなかった上、周囲に迷惑をかけるだけかけ、それでもようやくこれからという時だっただけに、他の社員も怒り心頭。
 その怒りもさめやらぬうちに、新たに採用されたのが、
「M君だったんだよ。だからM君もすぐに辞めちゃうんじゃないかって」
「……あの、Aリーダーって、どうしてそんなに偉いんですか?」
「だって、Aさん、社長の親戚だから」
ジンクス定着
「それでみんな、妙に素っ気なかったんですね」
 落ち込むM君に、Bさんは慰めるように続けました。
「ほんとに君には気の毒だと思う。見てたらAリーダーから特別なにか目をかけられてるようでもないし、一人で一生懸命仕事を覚えようとしてるし。でもみんなの反応にも無理はないんだ。前の件が一種のトラウマになってるから……」
「じゃあ、僕はずっと今の調子でやってかないといけないんですか? 僕は普通に仕事をするつもりで入ってきたのに。誤解を解く方法は無いんですか?」
「ううーん……。君のがんばり次第じゃないかなあ。仕事ぶりで認めてもらうしかないだろう」
 そのためには、正社員以上の頑張りを見せ、戦力になり得る人材だと思わせねばなりません。
 しかし未経験から転職してきたM君にとって、それはとてつもない難題に思えます。
 そもそもAリーダーの“現場に入れば社員も指導する”の言葉もあったのです。それがアテにできないどころか、Aリーダーとのつながりが見えたために、周囲から冷遇される始末。話が違うとはこのことです。
 心配したBさんは、その後、M君に仕事を回すなどして、仕事の輪に参加できるよう、それとなく取りはからってはくれましたが、おおっぴらに目をかけて指導するには至りませんでした。

 M君は従業員の中で、宙ぶらりんの状態で仕事を続けていましたが、冷ややかな空気に耐えかね、試用期間の終了と共に会社を去っていきました。
 かくして職場には“Aリーダーが採用する人材は居着かない”というジンクスが定着してしまいます。
 ますます中途採用者への風当たりは強くなり、それがさらに退職者を生むという悪循環を、社員たちが気づいていたかどうか、疑問です。
サクセスポイント
今回はココが問題!
転職の成功
 転職は内定獲得で完了するものではありません。職場に定着できて、ようやく転職成功といえます。戦力になれるよう、同僚たちから歓迎されるよう、転職者はとかく肩に力が入りがちです。
これでサクセス!
転職者の心構え
 新しく人材が増えるということは、その職場の人事に大きな影響を及ぼします。それを考えた時、必ずしも職場の全員が転職者を歓迎してくれるものでもありません。
 周囲との間に距離を感じたり、期待に満たないと落胆されたり。ある程度の逆風も頭に入れ、新しい職場に入っていく心構えが必要です。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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