転職失敗談2
民主主義の原則
人事や表彰をすべて社内投票で決めるA社に転職したMさん。選挙管理の手伝いに駆り出されたのだが……。(→後編はこちら
バックナンバー
すべてを投票で
 ITベンチャーに勤めていたMさんは、勤務先の事業縮小で転職することに。次に選んだのは社歴40年ほどのオフィス機器レンタル会社Aでした。
 いわゆる厳しい上下関係や、老舗体質に慣れていないMさんにとって、気になったのは社風。
「うちは何でも社内投票で決める、わかりやすい会社だよ」
 という担当者の説明通り、年一度の優秀社員、社内の序列、管理職の選出と、さまざまなセレクトが投票で決定されていました。
「他に、社長に言いたいことがあったら、直接メールを送ることも出来る。風通しはいいと思いますよ」
 胸を張って説明されたこともあり、MさんはA社の内定を受け入れることにしたのです。

 Mさんの入社後、さっそくMVP社員の投票が行われました。
「Mさん、悪いけど選挙管理委員の仕事、手伝ってもらえるかな」
 そう声をかけてきたのは、総務部長。
「投票箱は総務部で管理するんだけどね、誰がいつ投票したか、記帳してから投票することになってるんだ。Mさんは社員名簿と記帳を照らし合わせて、投票の遅い人にプッシュしてほしいんだ」
 慌ただしい営業マンなどは、ついつい遅れがちになり、そのまま投票を締め切ることもあるため、重要な仕事なのだと強調します。
「それから、毎日2回、投票箱と記帳を持ってきてくれるかな。こまめに開けていかないと、すぐ一杯になっちゃうし、開票作業も結構時間食うしね」
 その総務部長の言葉を信じていたMさんでしたが、ある時その言葉の裏にあるものを偶然知ってしまったのです。
秘密の作業
 投票締め切り日が近いある日、Mさんが頑張って未投票者のお尻を叩いたせいか、投票箱が一杯になってしまいました。
 投票箱を開けるのは毎日昼休みと終業後に決まっていましたが、イレギュラーな時間に総務部長のところへ投票箱を持っていったのです。
 選挙事務局に指定されている小さな会議室では、総務部長が一票一票用紙を開き、記帳と首っ引きで見比べ、何か書いていました。
 なんと総務部長は、一人一人筆跡をチェックし、誰が誰に投票したのか、アタリをつけていたのです。
「いいんですか? それ……」
 驚いたMさんが声をかけると、総務部長は面倒そうにこう答えました。
「投票はね、不正がすごいんだよ。事前の票のとりまとめに、派閥同士が張り合ったり……。だから誰がどんな動きをしているか、チェックする必要があるんだよ」
 そして、これは投票の結果とともに、社長の耳に入るのだと言います。
 おまけに社長宛のメールもすべて一旦総務部長が開封し、社長が読むもの、部長の手で処理するものに分けられていたのです。
「どこが風通しのいい職場だよ……」
 若手が主体のラフな職場しか知らなかったMさんにとって、ドロドロした選挙闘争はまるで別世界のよう。
「ちょうど良い。Mさん手伝ってくれないか。記帳順に文字が同じだと思える投票用紙を抜き出してもらいたいんだ。分かる範囲でいい」
 Mさんは転職してきたばかり。まだどの派閥にも入っていないと見て、総務部長は自分の片腕に引き入れてしまったのです。

(→後編に続く)

pen2 不正がまかりとおる社内投票に、とうとう社員から公正を望む声があがったが……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
バックナンバー

▲ページのトップへ