転職失敗談2
離婚率
栄転が決まった営業マンのHさん。しかし東京本社は寝る間も惜しむほどの激務。長距離恋愛に限界を感じ、結婚に踏み切るが……。(→後編はこちら
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社内恋愛でないと
 大手メーカー系販売企業S社に勤める営業マン・Hさんは悩んでいました。このほど地方支社から東京本社への転勤が決まったのです。
 転勤は多々あれど、地方から本社へ移れるのは営業成績の優秀者のみ。社員の名誉です。
 しかしよろこんで受け入れる一方で、一抹の寂しさも。実はHさんには彼女がいたのです。当然、以後は遠距離恋愛ということになりました。
 ところがS社の営業は激務。なかでも本社となると、朝は始発で出勤、帰宅は深夜2〜3時。本社でひと月も営業を経験すると、あまりの深夜帰宅の多さから、馴染みのタクシー運転手が出来ると言うぐらいです。
 そんな毎日の中から、彼女と会う時間と体力を捻出することは、タフでならしたHさんでもかなりの難問。加えて仕事でクタクタになって、荒れた独身寮にひとり帰る味気なさ。彼女との結婚に心が傾いたのも、自然ななりゆきでしょう。

「そろそろ考えるようになってきたんですよ。結婚とか」
 Hさんが打ち明けたのは本社転勤になってから、いろいろとお世話になっている先輩Aさん。
「おっ、遠距離の彼女だな。でも大変だぞ。彼女、社外の人間だろう?」
「そう……ですけど」
「うちの会社は、社内恋愛でないとうまくいかないって言われてるからなぁ。大丈夫か?」
離婚率の秘密
 A先輩はS社の仕事の厳しさ、特に朝から深夜まで、休日返上もあたりまえの忙しさは、社内の人間でなければ理解できないというのです。
「うちの会社、結構離婚率高いんだよ」
 Bさんは深夜の残業から浮気を疑われ、夫婦仲が冷えてしまった。Cさんは奥さんが仕事を始めたことも知らない有様で、すれ違いの結果別々の道を……。
 こうした離婚者の多くは社外の人間を伴侶に選んでしまったからだと言うのです。
 折しも仕事人間、会社人間に対する風当たりの強い昨今。S社の男性は“家事・育児に協力できない夫”であると女性が理解できなければうまくいかないと、A先輩は続けます。
「うちの奥さんも、家の事は全然アテにできないって、しょっちゅうこぼしてるよ。こないだなんか『子供が出来てもこのままじゃ、我が子に人見知りされちゃうわよ』って言われたし」
 かくいうA先輩も社内恋愛組。仕事を持つなどして、自分の時間を有効にできるような女性、一人でも育児家事をこなせるような女性でないと、S社の社員の妻を続けるのは難しいのではないかと、実感を込めて語るのでした。
「その子、地方の子なんだろ? 呼び寄せるとなると、友達もいないところに一人で越してくる事になるんだから……。よくよく話をしとかないと」
 たしかにHさんの彼女は地元育ちで、一度も家を離れたことがありません。仕事も友達もすべてコミュニティは地元で作り上げており、その点も含めて話し合うことが多そうです。
 Hさんは腹をくくって、彼女と会う時間を持ったのですが……
「いいよ、東京行く」
 拍子抜けするほど、彼女は至極あっさり受け入れたのです。

(→後編に続く)

pen2 それでも心配なHさんは、S社勤務の実態を懇々と彼女に説明するのだが……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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