転職失敗談2
スローとファースト
海辺の田舎暮らしに憧れるAさんは、人員確保に頭を悩ませている地方営業所の求人に応募したが……。(→後編はこちら
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スローライフの地
 ある海岸沿いのリゾート地に転職してきたAさん。都会に勤めていた彼にとって、そこでの生活は憧れのスローライフそのものでした。
 夏はジェットスキーにダイビング。冬は近場の温泉を楽しんだり、山の方に出かけて山菜摘みを経験したり……。
 地域の勤め人の多くは公務員で、そのせいか無理な残業はしないのんびり体質。夕方になると海岸沿いのバーに集まり、友人と飲み明かす日々。これこそまさしくAさんが望む生活だったのです。
 転職先はメーカーB社の販売営業所で、新たに立ち上げられたものの、東京からの距離、不便さなどから、転勤の話を持ちかけた従業員に次々と逃げられてしまった部署
 結局社内で人員確保ができず、中途採用での人員補充となり、採用されたのがAさんでした。
 当初B社は営業所近辺在住者、もしくは出身者の採用を予定していました。現地採用かUターンでもなければ、馴染みの無い不便な土地ですぐ音を上げてしまうと危ぶんだのです。
 あいにくAさんは首都圏出身でしたが、かねがね田舎暮らしに憧れていたため、面接でも是非にと強く希望。
「すべて現地採用で、本社との温度差が広がってもいけないし」
 という本社の判断もあり、Aさんは見事内定。数週間の本社での研修を経て、本社からの転勤組と共に、念願のスローライフの地に移り住んだのでした。
おばさんの洗礼
 若い男性の単身転居ということで、現地の人からは多少なりとも奇異の目で見られるかも……と、ささやかな覚悟を抱いていたところ、
「最近、田舎がいいとかで、わざわざこんなところにまで引っ越してくる人も多いのよ」
 と、ご近所さんの受け入れ態勢は万全
「Aさん、もう慣れた? このへんで食べもの買うならスーパーより商店街よ。新鮮だからね。あ、お魚はそこの角の魚屋さんがいいわよ。向こうのはダメ」
「この間も東京から来た若い子が陶芸やりたいっていって、山の方にある工房に半年ほど泊まり込んでたのよ。いい土が出るんですって。Aさんも興味ある?」
 ご近所や営業所のパートのおばさんたちが、気さくにAさんの世話をやいてくれます。
 無論、戸惑いもあります。
「Aさん、留守の間に電話ありましたよ」
「誰から?」
「ええ……っと……アとかアリとかいう会社の……誰だったかな。忘れたわぁ
 事務的な職業訓練を受けていない上に、のんびりやのおばさんたち。こうしたミスは後を絶ちません。Aさんが注意しても、息子ほどの歳の青年に説教されるという感覚がハナからないのか、
「いやぁ、もう歳だわ」
「ホント、アナタ、ボケるの早いわよお。ウフフ」
 などと笑いあう始末。
「電話の受け答えメモを作りましたから、電話をとったらそこに記入してください。ほんとに、お願いしますよ
 最後にはAさんが懇願する形に。
 こうしたトラブルや好意をありがたく受けつつ、Aさんはこの地にどんどん馴染んでいったのでした。

(→後編に続く)

pen2 Iターン先の生活を満喫するAさんだったが、スローライフに浸りきれない事態が発生し……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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