転職失敗談2
スローとファースト
都会と地方のギャップに戸惑いつつも、田舎暮らしのペースをつかんでいくAさん。この地にあった営業方法を会得したと思いきや……(→前編はこちら
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親子ほどの差
 職場の基本、「ホウ・レン・ソウ」(報告・連絡・相談)が出来ないおばさんパートに振り回されるAさん。
 いつまでも取引先の名前を覚えないパートさんや、電話のメモをとらずに取り次ぎミス続出のパートさん。頼んだ仕事が出来ていないのに、報告も無く帰宅するパートさん……。こんなトラブルは日常茶飯事。
 最初はカチンときていたAさんでしたが、
「自分が慣れた方が早いや。これもスローライフ
 と歩み寄ることにしました。
「取引相手も、わざわざ事務所に電話をかけてくる相手も、ここじゃ大体見当がつく。仕事の進み具合はこちらからチェックを入れれば分かるし、なんとかなるもんだ」
 こうして田舎ペースに慣らされたせいか、Aさん本来の仕事、営業の方も最近は順調なのです。
 最初は商品資料を山ほどかかえ、パンフレットを配り歩いては説明を繰り返していました。しかしまともに話を聞いてもらえなかったり、
「いろいろ言われても、若い人の話は分かんないよ」
 と言われたり、
「うちの息子もあんたと同じぐらいの年頃。でも、若い人には都会が暮らしやすいのか、なかなか帰ってこない……」
 と仕事そっちのけで、子供の愚痴につきあわされたり。
 そこでAさんは考えました。
「ここでは息子みたいな年齢の自分が何を言ってもまともに聞いてもらえない。それなら逆に、若さや悩みをもっと表に出せばいいのかもしれない」
 そこで営業方法を「当社が自信を持ってお勧めする」というスタンスから、ストレートに弱みを見せるやり方にチェンジしたのです。
甘えの構図
「もー困ったぁ。今月、どうしてもあと5件契約とらないといけないのに、全然うまくいかなくて……。このままじゃ、僕本社からものすごく怒られちゃうんですよ。はぁ……」
 この作戦が功を奏しました。
 ディベートや話術を駆使するより、年齢相応の甘えを見せる方が、特に年配には受けがよかったのです。
「わかった、まかせて。ちょっと知り合いにも聞いてみるから」
 と言われもしないのに、一肌脱いでくれる女性が続出。
 ポイントは少々愚痴っぽいかな、と思えるほど弱々しさを見せつつ、長話をすること。そしてくだけた口調。
「お兄ちゃんみたいな若い子と話すの久しぶりだから」
 とウキウキと話し込む人もいて、Aさんもくすぐったいやら戸惑うやら。
 こうしてAさんはどんどん、田舎の甘え上手になっていったのでした。

 しかし、Aさんの甘え上手が災いする日がやってきてしまいます。それは月末の締め日と決算期。
 目標数字にわずかに足りなかった上、思わぬポカがあり、本社上司から激しい叱責の電話がかかってきました。
 それにAさん、身に付いた甘えテクニックで
「いやー、参りましたよ〜。××さんとこの契約分だったんですけどね、銀行の届出印が分かんないとか言うんですよ。それでハンコを洗いざらい整理するのを半日、手伝わされましてね。これだ! と思う一本を持っていったら違うっていうんですよ、それで……」
 とついクドクド。これにせっかちな上司が怒り爆発。
「何をダラダラと言い訳してるんだ! こっちは忙しいんだ。もっと端的な話し方をしろ!」
 さらには
「君、▲▲さんっていう顧客から本社のHPにクレームが入ってたぞ。年寄りの一人暮らしのうちに上がり込んで、話し込んで契約させるのは止めてくれって」
「え! ▲▲さん本人がですか?」
「いや、息子さんらしい。久しぶりに帰省したら親が勝手に契約してて、驚いたそうだ」
 この顧客、「息子が最近帰ってこない」とAさんに愚痴ったあの人です。
 なおも続く上司の叱責を聞き流しながら、田舎モードと都会モードの境界線に、頭を抱えるAさんでした。
サクセスポイント
今回はココが問題!
Iターンのタイプ
 転職がきっかけで「おおらかになった」「いい意味で適当になった」などの声が寄せられるのも、地方へのIターンの特徴。しかし、地元企業に転職し、その地に根を下ろしていくなら問題のないおおらかさでも、首都圏に本社があり、その支店勤務という場合には、思いもよらぬ温度差を生むことにも。
これでサクセス!
都会との温度差
 今回のように仕事の進め方が違う、地方では問題のない営業方針が都会では問題にされる、といったケースの他に、地方支社は本社になかなか声を汲み上げてもらえない、人気商品の納品を大幅に後回しにされるといったトラブルも。こうしたIターン転職では、中央と地方の間で、バランスをとれる感覚も必要。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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