転職失敗談2
失言社長
A社の社長は創業者でオーナー、自信家にして強気。自ら応募者を面接し、力強く自社アピールを繰り広げる。しかし唯一の欠点が……。(→後編はこちら
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ツルッと一言
 従業員1000人を超えるような企業ならともかく、数百人規模の企業ならば、まだまだ採用の現場に社長が顔を出し、最終的なジャッジを下すことも珍しくありません。特に叩き上げのオーナー社長、カリスマタイプのワンマン社長ならなおさらです。

 従業員140名ほどの機器開発メーカーA社は、創立以来赤字ゼロという安定経営が自慢。新卒や中途採用の場面では、オーナー社長のI氏自らが面接に登場し、その点を自信満々で力強くアピールするのが常。
「経営が安定しているということは、ひいては開発者が安心して研究開発に没頭できる環境ということだ。技術者にとってこれ以上ない待遇だと思っている」
 と続けるため、技術系の応募者の食いつきも良く、従って人材不足に陥ることも、本来ならば無いはずでした。

 ところが社長のアピールにはまだまだ先があったのです。
「……とはいっても、アンタたち技術マンは囲われて仕事するから、浮世離れして困る。もうちっと経営の厳しさも知らないことには、これからも会社員でやってくには……」
 などと、日頃の愚痴とも本音ともつかぬ言葉を、他意も無くツルッと口にしてしまうから、さあ大変。
 これが応募者によけいな不安を与え、
「御社では、技術系の社員は立場が無さそうです」
 などと内定や選考を辞退されることもしばしば。
 実際に社長が特定分野の社員をひいきしたり、圧力をかけるといったことはまず無く、初対面の雑談の延長で、つい思っていることを口にしているにすぎません。
 いわば社長の失言は、心を開いている証拠なのです。
心を開いて
 例えば、ある既婚女性の最終面接では、激励しようとしたのか、
「優秀な人と聞いてたけど、女の人ですか。これからは女性も頑張ってもらわないと。今はアンタのダンナだっていつクビになってもおかしくないんだから。主婦の腰掛けじゃなくて、せいぜいヤル気出して」
 と言ってしまい、九分九厘採用が決まりかけていた話をパーにしました。
 とある応募者が、かなり小規模な企業に勤務していると聞いたときは、
「うちも安定経営が長いから、ここいらでアンタのような雑草根性がほしいね。不格好でもなかなか死なない野武士のような、草の根わけていくような雑種のたくましさ。こういう力強さを他の社員にも教えてやってほしいね」
 と持ち上げたつもりが、実はその分野では、どの企業も欲しがる、すごいスキルの持ち主で、プライドをいたく傷つけてしまったり……。

 日頃社長の気質を飲み込んでいる社員たちは、こうした失言にさほどの意味がないことも知っていますが、初対面の応募者は威圧的な社長の失言を、どうしても重く受け止めてしまいがち。言葉の真意を探って落ち込んだり、憤慨したりして、結果去っていってしまうのです。

 社長の失言をなんとかしないことには、今後の採用に差し支える−−。誰もが分かってはいたものの、創業者でオーナー、自信家にして強気で押していく社長に、真っ向から意見を言える人物はいません。
 そんな時、社長の気質を分析し、対策に乗り出したひとりの社員がいました。

(→後編に続く)

pen2 猫の首に鈴。“社長教育”に乗り出したのは、総務兼人事のTさんだった。しかし教育は難航。協力者を得て、ある作戦に出る……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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