転職失敗談2
失言社長
Tさんは人事コンサルタントに相談し、社長の説得を画策する。しかし相変わらずの毒舌ぶりにコンサルタントも歯が立たず……。(→前編はこちら
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最近の若い者は……
 せっかく決まりかけた採用を失言でフイにしてしまう社長。
 総務と人事を兼任するTさんはほとほと困り果て、人材バンクのコンサルタントに愚痴をこぼしていました。
「悪気は無いんですよ。だからタチが悪くて」
「そういうことも含めて、社長と合う合わないも大事な要素ですよ」
「でもねえ。社長は自分が叩き上げだから、有名企業とかエリート出身者を採りたがるんですよ。でもそういうタイプほど、ズケズケした物言いを嫌うんで、結局逃げられちゃう」
「事前に一言、社長について応募者に説明しておきましょうか。少しは心づもりもできるでしょうし」
「それもいいんですが、一度社長に話をしてみてもらえませんか? オーナー社長でプライドの高い人だから、社員の言うことなんか聞かないけど、採用のプロの言うことなら少しは考えてくれるかもしれない」
 ということで、コンサルタントは次回の人材紹介時に、A社社長と会うことになってしまいました。
「今回ご紹介する方は、M社の液晶系の部門に籍を置いていた方です。スキル的な面では別紙の通り豊富な経験をお持ちで、人柄は物静かな研究家肌で……」
「ひ弱なのは困るよ。うちの人事がつれてくるのはいつもグニャグニャした骨の無いやつばっかりだ」
 ここから、やれ今の若いのはこらえ性が無いの、ぬるま湯にひたっているのと、ひとしきり社長の愚痴を聞かされることに。
 コンサルタントも社長を説得するはずが、逆にこの勢いにのまれてしまい、
「社長がご覧になると、最近の人材は物足りなく見えるかもしれませんが、案外芯は通ってます。それに相手の言うことを素直に受け止めますから、そのあたりをご理解いただいて……」
 と言うのがやっとでした。
「そうかねえ。まあ、一度つれてきてよ。それからだね」
決めの一言
 こうしたやり取りの末、紹介されたのがくだんのS氏でした。「物静かな研究家肌」と表現された通り、口数も少なく黙々と仕事に没頭するタイプ。社長とは正反対です。
 それを心配したコンサルタントは、面接前に
「A社の社長はアグレッシブで、思ったことをつい口にしてしまう人ですが、悪気はないのであまり深刻に受け止めない方がいいでしょう。会社の居心地としては悪くないはずです。ただ若い人に色々言いたいだけなんですよ」
 と一言クギをさしておくのを忘れませんでした。
 そうして始まった面接でしたが、やはり社長のあけっぴろげなシャベリは収まらず、
「M社みたいな大きな会社を辞める気になるなんて、また物好きだね」
「うちはやり甲斐はあるけど、厳しいよ。大会社のぬるま湯とは違う。大企業といえばこないだも××社にいた人と会ったけど、君に雰囲気が似てたね。大企業にいるとクローンみたいに似てくるもんかね」
 など失言を連発。次第にS氏の顔が引きつっていくのが、同席していたTさんにも分かりました。
 しかし、社長の方は事前のコンサルタントの苦言を聞き入れたのか、S氏を気に入ったのか、
「うちから内定が出たら、いつ頃から勤められるかな」
 という珍しい発言をしたのです。
 ところが今まで社長の暴言を黙って聞いていたS氏が、ここにきて反撃に出ました。
「まだはっきり申し上げられません。実は、他に声をかけていただいている企業がありますので、ゆっくり考えさせていただきたいと思います」
「それはどこの会社だ?」
「……B社です」
 B社は最近急成長してきた同業他社で、常々社長がライバル視している企業。そこからも引き合いがきていると聞いて、俄然ファイトが燃え上がった社長。
「Bなんて、最近でこそ勢いづいてるが、まだまだ危なっかしい。君ほどの優秀な人材はもったいないよ」
 と一転してS氏を褒めちぎるわ、B社をこき下ろすわ。
「ぜひ、前向きに考えてくださいよ。ハハハ」
 と満面の笑みで送り出した社長でしたが、逆にS氏の表情は冷めきっていました。
 Tさんはまたしても失敗を実感していましたが、
「社長をソノ気にさせるコツをつかんだような気がします。同業に応募している人で、社長と同じぐらいあけっぴろげな人を、お願いします」
 とコンサルタントに頼んだとか。
サクセスポイント
今回はココが問題!
他社への応募
 面接で他の企業への応募の有無を質問されることがあります。複数応募が当たり前の今、正直に話しても差し支えありません。逆に「御社が第一志望です」「まったく応募していません」などのその場の嘘はすぐバレます。
これでサクセス!
企業が知りたいポイント
 複数応募の中でのその企業の優先順位、応募者が何を重要視して企業を選んでいるか、また転職市場でのライバル企業を知るなどの意味が込められています。
 また他企業から内定が出ている場合、応募者の評価を押し上げることもあります。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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