転職失敗談2
ケチケチ経費削減からの脱出
経費削減に社員の不満がつのる文具メーカーA社。カタログもパソコン制作に変わり、ソフトを持つIさんがその作業を任されたのだが……。(→後編はこちら
バックナンバー
トホホなカタログ
 景気は回復傾向にあるといっても、まだまだその兆しが見えない企業も少なくありません。
 中規模文具メーカーA社では、ここ最近ようやく売り上げが上昇。しかし増益につながらないことから、経費削減策がとられています。その厳しさは社員から不満が続出するほどでした。
 たとえば販売店などに送る商品カタログ。過去には手間ひまかけたスタジオ撮影&印刷のものを制作していましたが、ここ最近では社内でデジカメ撮影&パソコン編集のプリンター出力。カラーコピーで量産するというトホホな仕上がり
 しかもそのデジカメさえ、会社の備品ではなく、販売部のIさんの私物だったのです。
 そもそもの始まりは、社内での新作確認用にIさんが個人的に作っていた資料。私物のノートパソコンとソフトを使い、編集したものです。
 ところが予算削減で以前通りのカタログが作れなくなった時、にわかにクローズアップされたのがIさん作のこの社内資料。結果、多少見栄えを良くし、正規の新作カタログとして配布されることになってしまったのです。
 なしくずしに仕事をおっかぶされてしまったため、編集用のソフトもパソコンも全部Iさんの私物をそのまま利用。
 一度は上司が必要な一式の購入を社長に言上したものの、
「しばらくは様子を見て、必要なものが確定したら、次の期の予算に計上しよう」
 どこまで本気なのか、先延ばしにされてしまったのです。
嫌な前例
 ところが、端末の少なさに不便さを痛感していた他の部署がその話を聞きつけ、
「うちもノートを増やしてほしい。営業が外回りに出たらメールチェックもできない」
「在庫管理の端末がひとつしかないので非効率すぎる」
 と次々に声をあげてきたのです。
 この勢いに、のらりくらりしていた社長が逆上。
「買ってくれ、買ってくれとねだり放題。本当にヤル気がある人間だったら、Iのように自分でなにもかも用意するものだ。いまどきノートぐらい自分で用意できなければ、一人前のビジネスマンと言えるか!」
 あまりの逆切れ暴言に社員は唖然。
 こうしたやりとりを皮切りに、社内では“新しく必要なものは、まず自腹”なる妙なルールが暗黙のうちに横行することになってしまったのです。
 よかれと思って自発的に始めた仕事が、妙な成り行きから、他の社員に負担を与える結果に。
「ここ何期も連続でボーナスカットされ続けてるのに。先立つものを出してくれなきゃ、自腹も切れないよ」
「それにIみたいに独身だったら、ボーナス全額、パソコンだ、デジカメだと使えるかもしれないけど、うちみたいな子持ちの家族持ちには無理な話だよ」
 引き合いに出されるIさんも、とんだとばっちりです。ますます肩身が狭くなります。

 そうこうするうち、同じ部署の1年先輩のKさんがこう言い出したのです。
「俺、転職考えてるんだよね。本気で。ハッキリ言うけど、もうダメだよこの会社。社員に金銭的な負担をさせるようになったら……。もしすぐに仕事が見つからなくても、失業保険もらいながらしばらくのんびりするつもりで、近いうちに退職するつもりだ」
 Kさんの意志の強さに触れ、にわかにA社への安心度がグラつきはじめたIさん。
「Iもパソコンやソフト持ってるってだけで、いいように使われて。このままこの会社に残っても便利屋どまりで、先は無いぞ」
 ダメ押しの辛辣な一言に、目が覚めたような思いのIさん。
「たしかに、私物含めていいように利用されてるという気もする。これが原因で嫌な思いもしたし。チラシの技術があがってもせいぜいコピーどまりで、社外で通用する仕事とも思えない……」
 俄然、危機感がつのりはじめたのです。

(→後編に続く)

pen2 先輩Kさんの活動を見習いながら、転職に向けて動き始めるIさん。そして一足先に内定を獲得したKさんは思いもよらぬ行動に出る……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
バックナンバー

▲ページのトップへ