転職失敗談2
新人指導の落とし穴
入社時の輝きをどんどん失ってしまうFさん。ベテランパートEさんの指導に問題が……?(→前編はこちら
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消えていくヤル気
 入社後のFさんは仕事を覚えるため、ベテランパートのEさんの元に預けられることになりました。
 パートとアルバイトの似た者女性社員の中に、ひとり社員候補としてFさんを送り込むことに、一抹の不安があった人事のOさん。しかし、それも杞憂に終わります。
 営業経験に根ざした人当たりの良さと、分からないことは丁寧に指示を仰ぐ潔い態度、サッパリした性格などから、
「仕事の覚えもいいし、他の人とも仲良くやってますよ」
 Eさんも太鼓判を押したほど、すぐに周囲の社員になじんでいきました。
 いや、なじみすぎたのです。
 当初正社員と同等の残業をこなしていたのですが、次第にいやがるようになり、気がつけば残業はゼロ。他のアルバイト社員とまったく同じ行動を取るようになっていました。
 それだけではありません。あれほど意欲的だった未経験の仕事も、
「それはまだ覚えていませんし……できるかどうか……」
 と腰が引けはじめているのです。
 見かねたOさんが叱咤激励しても、
「はぁ……」
 と煮え切らない返事が返ってくるばかり。
 彼女が急速にヤル気を失ったのには何かある。
 Oさんはここで徹底的にヒアリングをしてみようと決めました。最初のうちは何を聞いても、
「いえ……べつに……」
 と言葉を濁らせていたFさんですが、
「口で不満は無いと言いながら、顔は不満だらけなんだよ。ハッキリ言ってもらいたいね」
 というあきれたような言葉で、ようやく口を開きはじめます。
「正社員登用するというお約束ですけど、実際にはそんなことは無いんじゃありませんか?」
「どうしてそう思うんだね?」
「そう聞いたんです。ここはアルバイトで採用されたらずっとそのまま。それにバイトの方が割がいい、正社員になっても体を壊すって……」
「そんなこと、誰から?」
「それは……。でもみんな言ってます」
「誰が言ったか知らないが、君の採用は今までとは違う意図があるんだ。だから頑張ってもらわないと」
「でも……Eさんはあんなに長く勤めているのに、正社員じゃないじゃありませんか。それにもし正社員にしていただいても、他の方とうまくやっていける自信がないんです」
感動の赤いバラ
 どうやら彼女を指導したベテランパートEさん、彼女がネックになっているようなのです。根気づよく聞き取りを続けた結果、パートのEさんは自分から正社員の話を断っておきながら、
「ここはバイトを正社員にはしない」
 と周囲に告げ、他の女性社員たちが変なヤル気を出さないよう、ニラミをきかせていたようなのです。
 そういえば彼女に預けたバイトはみんな同じ行動パターンになり、傑出した人材がいませんでした。これも、後輩アルバイトが正社員になり、自分の上司になられては困るとEさんが思ったからなのでしょうか……。
 予想以上のEさんの手腕(?)に、驚いたOさん。さすがにこれは放っておくわけにはいかないと上司に相談。そのままEさんを解雇するのが一番スッキリする処置とはいえ、Eさんの経験には捨てがたいものがありました。マイナス面を除けば、指導力は抜群なのです。
 結果、Eさんを意識改革するための、再教育が必要という話に落ちついたのです。

 Eさんには会社員の人材教育を専門に行う某社のセミナーに参加してもらうことになりました。期間は丸3日間。他の会社から集められた人たちと一緒に、時に大声を出したり、時に失敗をさらけ出したりと自己啓発的な訓練から、ペーパーテストやビジネスマナーの訓練までをこなします。
 3日目の最後にはバラの花を贈呈する“卒業式”があり、そこで泣かない者はいないというほど、感動的で劇的な変化が待っているという話です。
 Eさんはそこで意外にも素直にセミナーを受講。最後は涙、涙で意識改革をはたし、キビキビした物腰で職場に戻ってきました。
「これで他の人に変な影響が出ることもないだろう。逆に彼女の影響力で他のアルバイトもヤル気を出すかもしれない」
 Oさんの予想通りなら、職場にヤル気がみなぎるはずでした。ところが……。
 一週間後、職場では相変わらずゾロゾロとひと塊になってランチを取り、残業をせず帰宅する女性アルバイト社員たちの姿が見られました。その中心はキビキビした雰囲気をすっかり失ってしまったEさんでした。
 Eさんの参加した3日間のセミナーは短期間で劇的な変化をもたらしました。しかし元の職場に帰った時、ぬるま湯体質の女性たちに囲まれ質問攻めにあったのです。
「どんなセミナーだったんですか?」
「えーそんなことしたんですか?」
「最後はバラの花!? キャーッ! イヤー!」
 女性社員たちに、すっかり笑い話扱いされているうちに、セミナーの感動がどんどん色あせてしまったのか、Eさんのヤル気はキレイサッパリ消えてしまったのです。
「女性は環境に馴染むのが早いからな」
 ポツリと口にした上司の言葉に、Oさんは
「変えるのは環境の方だったのか。全員一緒に教育しないと駄目だったんでしょうか」
 と唇を噛み締めていました。
 Fさんはその後、正社員への夢を忘れたようにバイトの仕事を勤め、7ヶ月後に退職したということです。
サクセスポイント
今回はココが問題!
社員の声
 転職に役立つのはナマの社員の声、というのはよく言われること。直接聞くことが難しくても、最近ではネットコミュニティや掲示板などを利用し、ある程度のナマの情報を集めることができるようになっています。ここで注意したいのはその信憑性。
これでサクセス!
不満はよく漏れる
 これはネットやナマの声の両方に言えることですが、不満の声の方が漏れやすい傾向があります。無論、それだけの理由があるので重要な情報には違いないのですが、時に発言者の独りよがりな意見や不満も潜んでいます。例えば中途採用者が入ってくることで、不利な立場になる人の意見などは注意が必要です。できるだけ近い価値観、立場の人の判断を参考に。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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