転職失敗談2
地下鉄社長
仕事内容にも待遇にも問題のないN社。しかしなぜか社員の定着率が悪く……。(→後編はこちら
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気がつく社長
 毎朝、経済新聞を読んでいたおかげで面接もパス、見事内定−。
 学生の就職活動でこんな話をよく耳にしますが、そう単純にいかないのが転職活動の難しさ。

 中堅企業N社は、とりたてて問題のある仕事内容・給与待遇ではないにも関わらず、社員の定着率が悪く、常に中途採用を繰り返している会社でした。
 経営者はオーナー社長であるN氏。俗にいう、カリスマ・タイプの経営者で、ハッタリのきいた口ぶりや、自伝の執筆など強気の性格は、人によって合う・合わないがキッパリ分かれていました。
 しかし、定着率が悪い理由はそれだけではなかったのです。
「アクの強い社長だけど、そうそう毎日顔つきあわせて仕事するわけじゃないし」
 などと踏んで入社しようものなら、すぐに後悔することに。
 N社長、社長室はきちんと設けてあるにも関わらず、かなりマメにオフィスに顔を出し、見回るだけでなく、目についた社員に
「ここのゴミ、一杯になってるぞー」
 とか、
「今から××さんとこへ行くのか? だったら同行してやろう。え? なんでダメなんだ、もっと俺を使え。社長が行けば話が早いだろう、なぜ俺を使わん」
 など、直接の上司も言わないようなことまでクドクド言って回るのです。
 役職者が何度も
「そういう細かい点は私が注意しますから」
 と申し入れても、
「できてないから俺の目につくんじゃないか! 出来てたら何も言わん!」
 と逆に激高されてしまいます。
 一人で何もかもこなし、会社を大きくした経営者にありがちな、何でも自分でやらなきゃ気がすまない症候群
 N社長のこうしたチェックは、業績が伸び悩む時期など、さらに激しく、細かさを増します。そしてそんな時、運悪く入社してきたのが中途採用のAさんだったのです。
偶然の遭遇
 Aさんは26歳。業界経験と実績を買われて採用となりました。社長の気質も飲み込んだ上、勝手知ったる業界ということで緊張もなく、すんなり業務に入っていきました。
 ところが問題は業務時間外に待っていたのです。
 ある夜、Aさんは地下鉄のシート争奪戦に勝ち抜き、しっかりと腰を下ろした座席で発売したばかりの少年マンガ雑誌を読みふけっていました。
 そこに覆いかぶさるような影。ふと顔をあげたその先にいたのは、
「あっ! 社長?!」
 なんとN社長だったのです。
 N社長は常々、
「人間、自分が特別だと思ってふんぞり返るようになったらダメだ」
 を口癖にし、一般社員同様の生活を送るようにしていました。毎日の通勤も自家用車などは使わず、公共機関一本。しかもN社長はAさんと同じ地下鉄を使っていたのです。
 あわてて席を譲ろうとするAさんを押しとどめ、言葉少なく
「お疲れ」
 と言っただけで、ほどなく社長は電車を降りていきました。
 驚き慌てて充分な対応も出来なかったことを、少し悔やんだAさんでしたが、
「まあ、こんなこともあるんだな」
 とさほど深刻にとらえることもなく、家に帰るとそのまま忘れかけていました。

 ところが、この偶然が次の日大問題に発展したのです。
 翌朝、居並ぶ社員を前に、いつになく不機嫌な面持ちの社長が第一声を発しました。
「今日はちょっと君たちの社会人、ビジネスマンとしての自覚について問いたい。つい最近も……」

(→後編に続く)

pen2 朝礼の場は糾弾大会に変貌。社員の自己管理能力にまで目を光らせる社長は……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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