転職失敗談2
地下鉄社長
出勤に社員と同じ公共機関を活用する社長。地下鉄でマンガを読みふける姿を目撃されてしまったAさんは……。(→前編はこちら
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きっかけはマンガ
「最近はちょっと君たち社会人の、ビジネスマンとしての自覚について問いたい。つい最近も誰とは言わないが、通勤電車の中でマンガを読みふける姿が見られた。」
 なんと全社員の前で社長に吊るし上げられてしまったAさん。
 ハッとして周囲をみたところ、思いのほか苦い顔をしている社員も多く、中には年配者も数名。
 が、社長はさらに声を荒らげて続けました。
「若い者ばかりではない。役職者も何か読んでいると思ったらスポーツ新聞だったり、大きな口を開けて寝こけていたり……」
 あとで分かった事ですが、某部長は週刊誌の袋とじページを必死に指で破っているところを目撃され、ある若手社員は携帯電話のゲームに興じている現場を押さえられていたとか。
「社員バッジをつけたままだらしない姿をさらしているのを見るとどうかと思うね。私など車中で読むのはビジネス本か経済新聞と決めている!」
 社長の言葉は辛辣さを増してゆき、あげく
「自分を成長させる人間は、常日頃からの態度が違う。通勤の時間といえどもおろそかにしてはいけない! 我が社の社員として恥ずかしくない態度を期待する」
 と締めくくったのでした。
 そうは言っても、眠い早朝やホッと息を抜く仕事帰り、車中でうたた寝すらできないというのは辛すぎます。社長の訓示以降も、目を覚ますと社長の冷たい視線が待っていた、という話がちらほら。
「会社の外ぐらい気を抜かせてほしい。息が詰まる」
 社員の間に不満が渦巻くものの、なにせカリスマタイプのオーナー社長。気が強い上、一つ話せば十言い返されるので、誰も面と向かって意見ができません。思いあまって路線や交通手段を変える者も現れる始末です。
社長の愛読書チェック
 さて、吊るし上げられてしまったAさんですが、通勤経路上、路線を変えるわけにもいかず、結局通勤電車でのマンガをきっぱり辞めることにしました。
 しかしうたた寝もダメ、携帯もダメで、仕方なく文庫本を持ち歩くことに。ところが、これがきっかけで歴史小説の面白さに目覚めてしまい、通勤電車だけでなく、昼休みやちょっとした空き時間にもページを開く毎日になりました。この姿を社長が目にしないはずはありません。
 ある日の昼休み。Aさんは読みかけの小説をデスクに伏せ、席を離れました。ところが席に戻ってきたところ、社長がその本を手にして中を見ていたのです。
「何読んでるのかと思えば、時代劇か」
 やや意外そうな表情の社長。
「でもなぁ……司馬遼太郎ならいいが、誰だこの作者は……聞いたこと無いなぁ。司馬を読め、司馬を」
 認められるどころか、逆に作者まで指定されてしまったのです。
 勝手に私物をいじられただけでもイヤな気分なのに、好きな本にまで文句をつけられ、Aさんはムッとした表情を隠せませんでした。
 そして、数日後。社長がまた動きました。
 時期はまとまった連休に入る直前のこと。
「これからまとまった休みに入るが、休み中もボヤッとするだけでなく、自分の成長のために時間を有意義に使ってほしい。そのために君たちにひとつ宿題を出そう」
 そういって配られたのは、かつて社長がしたためた、あの自伝本
「休み中、これを読んで文章を書くように。常日頃から本を読めと言ってきたが、君たちは選び方も分からないようだ。感想でもレポートでもなんでもいい。これを読んで触発されたことを書いてくるよう」
 テカテカとした社長の顔が表紙で微笑む本を握りしめながら、Aさんはこの休みを使って転職先を探そうと決意していました。
サクセスポイント
今回はココが問題!
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 転職先を見極める時、大きなポイントとなるのは経営者。特に中小企業やオーナー企業では、社長の気質がそのまま職場の体質に反映されます。経営者との面接がある場合は、顔合わせと思わず応募者から試験するぐらいの気持ちで挑みたいものです。
これでサクセス!
社長選びのポイント
 経営を危うくしたり、会社を私物化する社長には共通点があるようです。例えば、パーティーや社員旅行、室内装飾などに派手さを求める人。景気の悪さをたびたび口にする人。自伝本を自分から配って回る人。趣味の話になると脱線しやすい人。また、応募者から逆に質問されると憮然としたり、投げやりになったりする人など。一つの指針としてチェックしてみてはいかがでしょう。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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