転職失敗談2
ネットでは別人格
人見知りの激しいKさんが転職したのは、すべての連絡事項がメールで完了する、ペーパーレスなA社だった……。(→後編はこちら
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ペーパーレスな職場
 社内通達や稟議書、日報などの提出書類をすべてメールやネットで済ませるペーパーレスな会社が増えています。コピー機まわりがスッキリする、書類に取られるスペースが少なくて済む、作業がスピーディーになり提出が早くなったなど、メリットは数々あるのですが……。

 ネット関連A社でも、社内通達や様々な申請はネットを介して行うのが基本。
 社員の出向が多く、同じ部署でもなかなか全員が顔を会わさないため、社員同士の連絡はメール、チーム全体に通達するときはメーリングリスト、緊急ではない話題や仕事上の質問などを投げかけるときには社員用の掲示板を利用していました。
 ところが、このネット交流、盛んになりすぎるがゆえの短所もありました。なんでもメールで事足りるため、社員同士の会話が減ってしまったのです。時には隣のデスク同士で、メッセンジャーで話し合っているぐらい。別に仲が悪い訳ではなく、その方が楽で早いから、という理由によりこの状態に落ち着いたようです。
 そんなA社にやってきたのは、中途採用のKさん・27歳。同じ業界からやってきただけあって、A社の社風にもすんなりなじみました。
 もともとKさんは人見知りするタイプ。決して仕事ができない訳ではないのですが、弁の立つ相手と向かいあうと食われてしまったり、言いたい事の半分も言えなかったり。
 それゆえ面接担当者に「応答に覇気がない」「煮え切らない」と敬遠されることも多かったのです。
 ですからA社のメール社会は、Kさんにとって好都合。むしろメールやネットを介した方が言いたい事が言える、本領を発揮できるので、まさにもってこいの環境でした。
 ところがこのKさん、入社からほどなくして「転職したい」とIT技術者の派遣会社などに登録し始めてしまったのです。
メール爆弾?
 話はさかのぼって、KさんのA社初出社の日。
「あ、宜しくお願いします」
 Kさんが積極的に発言したのはこのぐらいでした。その夜の歓迎会でも、Kさんは聞かれた質問には誠実ながら言葉少なく返答し、周囲に与える印象も「寡黙な人」というもの。が、元々こういうタイプも少なくない業界柄、Kさんの内気さもさして気にせず受けいれてもらえました。
 ところがその後、徐々に明らかになるKさんの性格に、周囲は閉口することになるのです。
「Kです。お疲れさまです」
 この言葉で始まるメールが、社員専用メーリングリストを駆け巡り始めたのです。このメーリングリストは、社内や部署内の一斉連絡用に用意されているもの。基本的な使い方は一方通行で、趣味のものと違って活発な意見交換の場ではありませんでした。
 ところがそこにKさんのメールが、多いときには一日に数通も流れ始めたのです。
 きっかけは仕事に行き詰まった時、他の社員のやり方を参考にしようと質問を投げたことでした。
 しかし次第に、仕事に対する質問から提案、雑談にまで内容が広がりはじめ、ついには何でも気軽に話題を投げかけるまでになっていきました。
 こんなKさんのメール頻度と、普段とは真逆の雄弁な文面に、他の社員も「普段は無口なのに、メールはマメ」と面食らい気味。それでも、できる範囲で対応していました。
 ところがある日のこと、
「今、これこれの技術を使っているのですが、こういうケースについて知っている人いますか?」
 というKさんの問いに、的確に答えられる社員がいなかったのです。見かねた先輩社員の一人が、
「僕は使った事ないけど、この雑誌の、ここに載ってた事例に近いと思うんだけど」
 と返事を送ったところ……。
「もっと現実的な意見の方がありがたいです。引き続きお待ちしてます」
 言葉遣いは丁寧ながらいたって事務的に、親切心をバッサリ斬ってしまったのです。

(→後編に続く)

pen2 リアルでは人見知り、ネットでは雄弁で事務的。こんなKさんのメールが社内で微妙な空気を作り出してしまい……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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