転職失敗談2
ふたりの初心者
介護業界A社の最終選考に残ったふたりの既婚女性。20代のNさんを推す社員が多いなか、リーダーは落ち着きのある40代のSさんを支持したが……。(→後編はこちら
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ふたりの候補
 中途採用者を募集することになった介護関係のA社。最終選考まで残ったのは20代半ばの女性・Nさんと、40代前半の女性・Sさんのふたりでした。いずれも既婚者で業界は未経験。一次面接を担当した社員は
「やっぱり若い方がいいですよ、体力はあるに越した事はないし、時間的な無理もききやすい。結婚前まで仕事をしていたそうなので、ブランクも短くて済みます」
 と全面的にNさんを支持。周囲もその声に同調していたのですが、ただひとり、採用チームのリーダーが、
「いや、そうなんだけど……話を聞いてみたらSさんもなかなかしっかりした考え方をしてる。若い方が知識の吸収も早いだろうけど、それだけに他の仕事にも目移りしやすい。すぐ辞められてはかえって意味がない」
 と年上のSさんを支持したのです。
「でも年上の部下は指示が出しにくい」
「落ち着いた人の方が顧客も安心する」
「Nさんの方が熱意があった」
「Sさんは両親が高齢だから業界への考えが真剣」
 ふたつに割れた議論の結果、リーダーが決断を下しました。
「試用期間ということで、ふたりとも採用してみよう。本当に優秀な人材なら一人に限ることはない。無理して入社してきた場合には、試用期間中に辞めていくだろう」
 こうしてふたりの女性社員、NさんとSさんが誕生したのでした。

 採用に携わった社員たちは、折に触れて、入社後のふたりを比べるように観察していました。
 やはり同年代ということで、他の従業員が気さくに話しかけるのはNさんの方が多く、すこし距離をとったSさんはひとり黙々と解説書などに目を通す姿がしばしば見かけられました。
 同僚たちの話によれば、やはり若いだけあって作業手順やパソコン操作などを覚えるのはNさんの方が早く、Sさんは社員を呼び止めて質問する事が多いとか。
 仕事の指示を出しやすいせいか、頼み事もNさんにする人の方が多く、自然と彼女よりの感想が多く集まります。
「やっぱりNさんで決まりでしょう。Sさんは職場に馴染むのに時間がかかってるようですし……」
 ところが、しばらくするとこの評価が揺らぎ始めます。
フォローのスタイル
「あー、すいませぇぇぇん」
 気の抜けたようなNさんの謝罪の声も、このところ耳慣れたものになりつつありました。物覚えが早いNさんでしたが、生来雑なのかチェックするということをしないため、ミスを連発しはじめたのです。
 書類は誤字脱字が多く、お客様からの問い合わせや伝言も忘れてしまったり。今日は今日で、卸値が書かれてある業界用の製品カタログ、しかも一部しかない物を、顧客に渡してしまったとかで大問題に。
 親しげに話しかけていた同僚たちも、最近はNさんのミスのフォローに大わらわ。その度にNさんが語尾をのばして謝るという図式が当たり前になってしまったのです。
「Nさん、結婚前は仕事してたんだよね。そこではどうしてたの?」
 たまりかねた同僚の一人が聞いてみると、
「えー、前の職場ですか? 一通りのビジネスマナーなんかを習って、端末の使い方なんかを教えてもらって……あ、後は営業さんの外回りに一緒についていったりとか……1年で結婚して辞めちゃったので、あんまり記憶にないんですよねぇ(笑)」
 どうやら仕事らしい仕事を始める前に退職していた模様。実務経験に乏しいことが判明し、周囲も思わずあきれ顔。
 この微妙な空気を感じたNさん、さすがにこれではヤバいと思ったのか、その後は仕事でミスした翌日に
「主人が北海道に出張したんで、少しですがお土産です」
 と箱詰めのお菓子を持って来たり、
「友達が勤めてて……」
 と遊園地の割引券を持って来たりするようになりました。
 遠慮して受け取らない人には
「いつもご迷惑をおかけしてますから」
 と一筆カードを添えてデスクに。彼女なりに気を遣っているようなのです。
 このプレゼントによるフォローには周囲も
「気を遣ってくれるのはいいんだけど、ベクトルが違うんだよ。そのマメさを仕事に向けてくれないかなぁ」
 と困惑気味です。

 一方、マイペースに仕事を覚えていたSさんはというと……。

(→後編に続く)

pen2 Nさんのミスに振り回される社員たち。その間、Sさんはゆっくりとだが確実に仕事を覚えていき……。次回、後編へ続く。
・…→ Text & Illustration 山本ちず
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