他人の失敗から学ぶ転職裏マニュアル 転職失敗談集3

FILE:005 ネガティブ営業

Iさんは化粧品のトップセールスウーマン。30代前半の彼女は、フランクなトークと、無理矢理商品を勧めない欲の無さで、顧客の信頼を集めていたが……。

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欲しい人にだけ

化粧品の訪問セールスの仕事についているIさんは、社内のトップセールスウーマン。トップの秘訣は彼女の営業スタンスにありました。

「今、売れ筋なのはこの美容液ですけど……奥さんほど肌に張りがあったらね、こんなものはいらないのよ。むしろ、クレンジングをきちっとした方がいい。うん、肌ってのは甘やかすと弱くなることもあるから」

こんな風にフレンドリーな言葉遣いで、高い美容液よりも安いクレンジングを売ってしまう正直っぷり。

もちろん、それだけではありません。自分が使ってみて納得できない商品は、

「これは正直お勧めできない

「もうちょっと待ったらモデルチェンジして、いい成分が入る」

など、商品をけなすことも珍しくないのです。

本人はサバサバした性格ゆえに、

「気取った物言いができないだけですよー。それに、いらない物を売りつけても自分の寝覚めが悪いから、欲しい人、合う人にだけ説明しますよって言ってるだけ。化粧品って結構高いしね」

とは言うものの、この目先の売り上げに走らない言動に信頼を寄せる人は多く、

「営業なのにあの人は欲が無い

「いらないものまで売りつけられる心配が無い」

と口コミや紹介で顧客が増加。気がつけば指折りの好成績をおさめるまでになっていたのです。

そして、Iさんのやりがいは、やはりお客様の喜ぶ顔。

6月にほど近い初夏のある日、奥様仲間からの紹介である顧客に呼ばれたIさん。その方は70代のおばあさん。

「こんなおばあさんが、今更化粧なんかしても同じだろうけど……」

可愛がっていた孫が結婚する事になったのだと言います。

「あんまりむさ苦しい格好で行ったら、孫も肩身が狭いだろうし、礼儀としてね」

言葉には出さないものの、顔には孫の結婚を喜ぶ表情がありあり。それを見たIさんは心が温まり、おばあさんの為に化粧品を選び、親身になってメイクのレクチャーをしてあげました。

後日、おばあさんから丁寧なお礼状が届き、

「おかげさまで孫に恥をかかせずにすみました」

とウエディングドレスの花嫁に、笑顔で寄り添う老婦人の写真が同封されていました。

その場で効果

この手紙を手にしたIさん。ほのぼのとした気持ちになったのもつかの間。はたと考え込んでしまいました。

「そういえば、今までお客さんからこうしてお礼を言われたことって少ないなあ」

セールスのその場、その場では、

「わあ!しっとり!」

「へーこうやってマッサージすると、スベスベになるー」

と盛り上がるものの、後々まで

「あれからどんどんシミが消えてねえ」

などの喜びの声はあまり聞こえてこないのです。逆に「シワが」「日焼けが」など新たなトラブルは次々起きますが。だからこそIさんも繁盛していたのです……。

「これって、結局はその場のトークで期待感を持たせて売っているだけじゃないの?」

やはり、化粧品の効き目には個人差があり、目に見えるまで時間もかかります。Iさんの目の前には疑念がちらつき始め、もっと目に見えるやりがいが欲しいと考えるようになりました。そして、その気持ちは仕事を変えることに傾きます。

そんな時、結婚退職した知人が出産後、再び仕事を始めたというお知らせが届いたのです。彼女の仕事は、下着の販売。さっそく連絡をとってみると、子供をあやしながら話してくれました。

「仕事っていっても、私は子供もいるでしょ。だから、お茶会やパーティー形式で友達を集めて、わいわい話をしながら見せる感じかな。みんな出産でボディラインが崩れてるのを気にしてるからねー。マジ真剣」

なるほどなるほど、と目を輝かしてうなずくIさん。

「店と違って家だから簡単に試着できるし、その場で効果が分かるから食いつきいいよ!」

この一言がきっかけになり、Iさんはこの下着メーカーについて、本気で情報を集める気になったのでした。

この後、会社を辞め下着セールスの会社に転職したIさん。新天地でも自慢の話術と手腕で、瞬く間に好成績をモノにするのだが……。
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文・イラスト:
山本ちず

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