他人の失敗から学ぶ転職裏マニュアル 転職失敗談集3

FILE:012 ひとりっ子転職

なかなか後任が決まらないことに焦ったRさんは、社長に掛け合い採用面接に同席することにしたのだが……。

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社長のこだわり

Rさんが面接に先立って履歴書に目を通したところ、業務上で確認したいことはあるものの、経歴そのものに問題はなさそうに思えます。

しかし、面接がスタートし一通りの応答を済ませると、社長は履歴書を見ながら新たな話題を切り出すのです。

「ご家族は?」

「今は一人暮らしです」

「そうじゃなくて、親兄弟はと聞いてるんだ」

「実家に両親、あと独立している兄がいます」

「二人兄弟か……やっぱり兄弟はいいものか?」

それから応募者の家庭環境や、幼少時代の思い出などを根掘り葉掘り

応募者も質問の意図をつかみきれないのか、ただの雑談と思ったのか、

「どうなんでしょうね。子供の頃はそれなりに喧嘩もしましたが、そこそこ仲は良かったのではないでしょうか。今はあまり連絡を取っていませんが」

「お兄さんは親御さんと同居していないのか?ゆくゆくはどちらかが面倒みるんだろう?」

「まあ……まだ先のことですし、なんとも……」

「そんな……親には育ててくれた恩があるんだ、親の恩を忘れてはイカン!」

一人でヒートアップしていく社長に、応募者もRさんも唖然。そして、微妙な空気のまま面接は終了。

この日は、たまたま社長のムシの居所が悪かったか、変なトラウマでも刺激されたのかと思っていたRさんでしたが、その想像はすぐに打ち砕かれます。

社長は応募者全員に「家は?」「家族は?」といった質問をぶつけまくっていたのです。

行き過ぎた身元調査

「君、これを見ると兄弟がいないようだけど、ひとりっ子か?」

履歴書を見ながら社長が問いかけた応募者は20代前半で、ハローワークから紹介されて来た初めて転職するという女性でした。

「ひとりっ子というのはどんなものかね?」

Rさんは『また始まったよ』という表情で見守っています。一度は

「あまり家庭についての質問されない方がいいかもしれません。産まれ育ちについて聞かれる事を快く思わない人もいますから……」

とやんわりたしなめたのですが、

「私は、家庭のあり方こそ聞きたい。その人がどうやって育って来たのかは大切だからな」

妙なパッションで頑として譲らないのです。

この日の女性も、仕事欲しさからか一生懸命質問に答えようとしていました。

「そうですね。昔は一人っ子は少なかったので、兄弟がいる子よりわがままだとか我慢が出来ないんじゃないかとか、いろいろ言われましたけど……」

そこまで言って、自己アピールとしてマズいと思ったのか、

「あっ、でもそうならないように自分でも気をつけてやってきた……つもりです」

「兄弟が欲しいと思ったことは?」

「子供のころは欲しいと思ったこともありましたが、今では兄弟がいない分、親には手をかけて育てられたと感謝しています」

この辺りで、妙な質問が続くと女性も気づき始めますが、社長はこの回答に満足したのか非常にご満悦。快調に質問を飛ばしていきます。

「うん。うん。そうだ。親には感謝を忘れちゃイカン。親御さんは何をしてる人だい?親が年を取った時のことなどは考えてるか?」

そして、最後は『親の恩は……』といういつもの言葉で締めくくり。

社長はよほど彼女を気に入ったのか、その後も、

「あの子はちゃんと考えてる。あの子なら採用してもいいんじゃないか?」

と採用に乗り気でした。

ところが、その浮かれ気分に冷や水をかけるように、ハローワークからある通達がきたのです。

「応募者の身元調べが行き過ぎているという報告がありました。生活環境や家族状況についての調査は差別に繋がるおそれがあります。こうした調査は応募者本人の能力とは関係のないものであり……」

という厳しいもの。どうやら、先日の女性が苦情を持ち込んだようです。

この通達を受け、「そんなつもりはなかった」「人となりを知りたかっただけだ」と弁解し、以後注意すると約束した社長。ただし、Rさんとはこんなやりとりを繰り広げます。

「なんだなんだ、ちょっと雑談したぐらいで。もっと他に仕事があるだろうにハローワークも暇なもんだ!」

「質問された方は雑談だとは思いませんよ」

「けどなぁ……うちに今度子供が産まれるんだよ。この歳だから兄弟は作ってやれないかもしれん。だから、どうしてもひとりっ子の成長は気になるじゃないか!」

なんと、社長は歳の離れた若い奥さんとの間に、50歳を過ぎて初めて子供が出来ていたのです。

この意外な理由に驚き、半ば飽きれたRさん。しかし、この調子ではますます後任が採用できないと、心を鬼にして告げました。

「でも、そういう質問をしていると、小さい会社だけに企業モラルがなってないと取られるかもしれませんよ。社長はこの会社の基盤を固めて“次の世代”につなげないといけないんじゃないですか!?」

この一言が効いたのか、その後社長の質問内容は多少控えめになったとか。

転職サクセスワンポイント講座

今回はココが問題!

転職と身元調査

転職に際して身元調査はしてはいけないというのが職業安定法の指針。しかし、一部大企業や金融関係など応募者個人の信用が問われる職種の場合、専門機関に依頼するなどしての調査を行っているのが実情です。

これでサクセス!

調査が行なわれるとき

調査を前提としている企業以外でも、応募者の言動に不審な点があったり、履歴書に不備があったりした場合、調査に踏み切るというケースも。職歴詐称の場合は、特別の調査を行なわなくても、年金の納入状況などから調べがつくことも。経歴の詐称はリスクが大きいということです。

文・イラスト:
山本ちず

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