他人の失敗から学ぶ転職裏マニュアル 転職失敗談集3

FILE:013 賞取りレース

広告賞の受賞経験をもつKさんだったが、転職先の社内コンテストでなかなか結果が出せない。そんなKさんに社長が辛辣な言葉を投げかけて……。

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白熱の社内コンテスト

従業員の分かり易い目標、業界のレベルアップなどを目的とした、業界独自のコンテストの数々。例えば、クリーニング屋は洗濯の技術を競うし、スーパーはレジ作業の丁寧さ正確さを競うし、清掃会社は窓ふきのスピードで戦います。

社内に問題を抱える企業は、経費削減や業務改善なども競う対象にさせたりします。

また、その賞品となるとこれまた千差万別で、太っ腹に海外旅行!というところから、寸志、商品券、旅行券。だんだん質素になって、タオルやトロフィーといった粗品・記念品……そして、一番多いのは“名誉”(ただし社内限定)というプライスレスな贈り物かもしれません。

広告代理店A社の制作部に所属するKさんが転職を決意するに至った理由のひとつに、社内のコンテスト熱がありました。

「お恥ずかしい話、賞が取れないんです」

こういうKさんは、一体どういう環境に身を置いていたのでしょうか……。

A社では支社・系列会社などを含めた大々的なコンテストを実施していました。部門は営業やコンサルタント、広告と多岐に渡り、年に一度の授賞式は参加できる社員は残らず駆けつけ、拍手と喝采の中、発表と賞状授与が行なわれるのです。

受賞者は喜び、ガッツポーズを決め、最後は感涙にむせびます。このテンションの高さを初めて目にした人は驚き、引いてしまうこともあるぐらいです。

しかもこのコンテスト、グループ内の勢力分布にも大きく影響します。受賞者を多く抱える職場にはいい仕事が回ってくるとあって、どこも受賞に躍起。受賞者は“別格扱い”が待っているのです。

全社的に賞取りレースには積極参戦。若手〜中堅は参加がなかば義務づけられている状態です。

Kさんもこの流れに従い出展したものの、受賞どころかノミネートにかすりもしないのです。

厳しい言葉

Kさんの腕が悪いのかといえば、決してそうではありません。実はA社に入る前、Kさんは学生時代から数々の賞を受賞してきたのです。それも社内コンテストのような閉鎖的な賞ではなく、一般公募のものや全国の学生を対象にするようなものばかり。

そんな輝かしい受賞歴を引っさげてA社に転職してきたKさん。

「社内コンテストなんか、規模も知れてるし、それなりの結果は出るだろう」

と高をくくっていたものの、これがまたノータイトル。

「最初はここの客筋に合わなくて、広告効果が出てないだけだと思ってたんです。作ってるものの質は悪くないから、コツがつかめれば大丈夫だと」

しかし2年、3年と過ぎていくものの、結果は同じ。

社内コンテストでは作品としての質よりも、その広告でいくら稼いだか、どんなに目立ったか、どれだけ問い合わせがあったかなどの数字が優先し、最終的には

「気取った作品に価値なんかない。うちに芸術家はいらないんだ」

と公言する社長や会長の価値観によってベストが選ばれます。

結局、作品としての完成度より、「稼げてトップのお気に召す」作品であることが大切だったのです。

受賞歴があり、自分の制作スタイルを確立しているKさんにとって、そこまでポリシーを曲げるのは苦しいこと。そして、極め付きはなんと、新入りの後輩がサクッと受賞。若いだけに吸収も早かったのでしょう。しかし、これによってKさんへの周囲の視線は、一層厳しくなっていったのです。

「社長は、『外で賞をとった社員でもなかなか結果がだせない。それだけうちのコンテストがハイレベルということだ。だからみんな胸を張って仕事をしろ』と触れ回っているんです……」

Kさんの自信のよりどころと言える受賞歴を、自社コンテストの価値の引き上げに使われてしまったことで亀裂は決定的になりました。

「A社の価値を上げるために、意地でも賞を取らせないのかと勘ぐるようになってしまって。これではもうダメです」

Kさんにしてみれば、どんなに持ち上げても所詮は内輪の認め合い、そこにレベルを合わせるのはキャリアダウンにつながる、となにがなんでも転職しようと心に決めたのでした。

すっかり職場に愛想が尽きたKさん。賞取りレースから身を引いて転職準備にいそしむのだが……。
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文・イラスト:
山本ちず

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