他人の失敗から学ぶ転職裏マニュアル 転職失敗談集3

FILE:016 ぜいたくな転職

転職に反対の義父も説得し、いよいよ転職活動モードに入ったNさん。そんなとき彼の手元に一通の封書が届く……。

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義父の心づくし

恵まれた環境を投げ打って転職を希望したNさん。昔気質の妻の父もなんとか説得し、いよいよ転職モード全開に。

と、同時に家庭内も急に忙しくなり始めました。

今の住まいは勤務先の借り上げ社宅のため、転職が決まれば出ていかなければなりません。引越しに向けて少しずつ準備を始めることになりました。ただ、家賃は頭が痛くなる問題です。今の家賃負担は3万円と嘘のように安いのに対して、転職後は福利厚生が今ほど期待できないため生活水準ダウンは必至。小さい子供がいる一家三人、治安の悪い地域は避けたいし、保育園・幼稚園があるところとなると、やはり家賃もそこそこ……。

それに引越し費用を考えると、梱包やゴミの廃棄など、できることは自分たちでやって少しでも節約しなければなりません。子育てと家財道具の処理を同時進行、これは大変です。

「今は大変だけど、将来絶対楽させてやるから

Nさんは自分の転職に運命を巻き込んだ妻を、少々“レトロな台詞”で励ましていました。

そして、そこに届いたある一通の封書。

「これから色々物入りだろうから生活の足しに。頑張れ」

短い手紙を添えた20万円の現金書留でした。差出人はNさんの転職に大反対だった、あの義父。

心づくしに感謝し、必ず納得できる結果をと誓ったNさん。間違っても妥協することはできないと、慎重に慎重を重ねて会社を探していきました。

とはいっても、Nさんは大企業のトップセールスマン。曇りの無いキャリアも強みです。最初から人材紹介のプロと相談の上、企業を絞りこんで打診する方法をとっていきました。

Nさんの希望は営業ではなく、経営コンサルタント。コンサルタントの経験はありませんが、将来的なことも考えこの仕事を志望しました。さらに自分のため、応援してくれる家族のためと、業界でもトップクラスの企業にばかりぶつかってみたのです。

芳しくない結果もあったものの、その中の最大手、第1希望のA社から面接の招きが。

息を詰めてNさんの転職活動をみつめていた妻も大喜び。喜びのあまり実家の父に連絡してしまいます。しかし、案の定堅物の義父は

「脈がありそうということか。でも面接もまだなんだから、気を引き締めてほしいものだ」

とチクリ。あくまで娘かわいさの援助であり、転職自体は歓迎できない様子。それが分かるだけにNさんも

「まだ早いよ。そういうことは内定が出てから連絡してほしいな」

と頼んだのですが、妻は

「援助してもらったんだから、途中経過も報告しないと。お父さんも心配だろうし」

と譲りません。それに対し、Nさんは、万一途中で落ちたりしたら目も当てられない、あのお義父さんがどうヘソを曲げるかと並外れた緊張感を抱えながら、面接に挑む事になったのでした。

激動の年末年始

Nさんの実力に加え、この緊張がほどよく作用したのか、Nさんは難関といわれるA社の選考を次々とパスしていきます。人が財産の業界だけあって、選考は4次までといたって慎重。

その間、妻はひとつ選考を突破するごとに実家に連絡を入れて喜び。でも、Nさんは本業の仕事、転居の下準備、次々進む選考の対策に追われ、正直フラフラです。

選考に入って足掛け5ヵ月目。新年も迫った12月のある日、ようやくA社の選考結果が出たのでした。

「おめでとうございます。採用だそうです!」

そんなうれしい知らせをもたらしてくれたのは、間に入った人材コンサルタント氏。喜びで声がうわずっていました。

それからNさん宅は上へ下への大混乱。実家の両親に電話し、もちろん妻の両親にも連絡します。

援助の手を差し伸べつつも、どこか転職に否定的だった義父も、今回ばかりはさすがに喜んだ様子。それというのもA社は社会認知度も高く、企業イメージも堅実そのもの。だからこそ、

「いい会社を選んだ。よく頑張ったな」

と相変わらず言葉は少ないもののアツく激励してくれたのでした。以前は、義父に言葉をかけられれば、取っ付きにくい人だと緊張するばかりだったNさん。しかし、妻に活動状況をつぶさに報告され、こちらが一喜一憂する姿を見せれば、頑固ながら態度は軟化します。転職活動を通じて、苦手意識が強くあった義父との距離が近づいたようでした。これは思わぬ恩恵です。

さて、そうなると今の職場に辞意を申し入れねばなりません。

「今は年末で忙しい時期だし、これは年明けにしよう」

さしあたって年末年始の休暇でほっと一息つきたい気持ちもあり、職場への報告は年明けに回したNさん。これが幸か不幸か、後の運命を変える結果になったのです。

それというのも、年の瀬も押し迫ったある日、妻が告げた一言が新たな事態を招きました。

「子供ができたみたい

なんと予想外の第2子懐妊。この知らせは電光石火の早業で妻の実家にも伝えられました。年末年始の挨拶は予定を大幅に変更して、第2子の出産とNさんの転職問題を語り合う場になってしまいます。

「こんな時期に転職しなくても。子供が落ち着いてからでも……」

「ますます物入りになるのに、転職したら給料も下がるんだろう?やっていけないよな」

「妊婦に引越しはキツいわよ」

「まだ辞めるって言ってないんでしょ?それなら……」

Nさんは、親戚総出で説得される立場に早変わり。軟化したと思った義父も、

「子供も2人になるんだ。男の責任をどう考えている」

と態度は劇的に硬化。

祖父の立ち居振る舞いには、

ワシの目の黒いうちはわがままは許さん!』

という強い意志が満ちあふれています。その勢いに屈する形で、泣く泣くNさんは転職をあきらめたのでした。

転職サクセスワンポイント講座

今回はココが問題!

退職フロー

退職のステップは、まず直属の上司に意思を伝え、さらにその上の確認をとり、しかる後に退職願を提出するという流れ。その間に引き止めがあったり、退職の日を決めたりという交渉が行なわれます。書面の表書きは、会社側が正式にまだ承認していない点や、謙虚さを示す意味から、退職届ではなく「退職願」とするのが一般的です。

これでサクセス!

退職届は撤回できるか

本人の気まずさ、後々の影響を度外視するなら、企業によりけり。書面が発生する前、上司に辞意を伝えた段階であれば、撤回できるところが多いようです。「退職願」の場合は、会社が受理して初めて辞意が認められるので撤回はできますが、意思の通告という意味で「退職届」は撤回できないという違いがあります。

実際にこのあたりまで気にする現場は少ないようですが、気になるという人は要注意。

文・イラスト:
山本ちず

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