他人の失敗から学ぶ転職裏マニュアル 転職失敗談集3

FILE:019 妻と夫の会社

F氏とR子さんはいわゆる「ダブルインカム」夫妻。仕事を通して出会った2人だが、それぞれの勤務先は取引関係にあり……。

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取引先の恋人

結婚するカップルの出会いのきっかけは色々ありますが、仕事を通じてというのは少なくありません。

共稼ぎ夫婦であるF氏とR子さんのなれそめは、得意先との打ち合わせに出かけたR子さんに、たまたまF氏が担当になったことでした。

取引関係での恋愛は、社内恋愛ほど息が詰まらず、気を遣わず、万一の時もさりげなく別れられるという利点があります。ただし大切な得意先の場合、下手を打つと先々の仕事に影響が出るというデメリットも。

F氏とR子さんの場合は、売り込みをかけられるF氏の方が仕事上優位な立場にあったこと、また2社が長い付き合いで親しみが持ち易かったことなどが幸いし、比較的気安くアプローチができたようです。2人は仕事の合間に交際を深め、とうとう結婚することになったのです。

ちなみに、F氏の勤務先は大手企業の系列会社。R子さんの勤務先はそこからの発注を命綱とする中小企業。資本関係こそ無いものの、かなりの“支配関係”にはあり、R子さんの勤務先の社長はことのほか今回の縁談を喜びました。

「R子さんは我が社の営業ナンバーワンだ。仕事だけでなく旦那まで捕まえてきたんだから。これからは、売り込む際にはR子さんを通すことにしようか」

社長は、あちこちで冗談めかして話題にするなど、随分とはしゃぎ回り、

「結婚式は?仲人は立てないのか?媒酌人は?」

と実の親のようにR子さんに詰め寄るのです。

派手なことが嫌いなR子さんは、式は上げずに身内だけの披露宴、場合によっては海外挙式も考えていたのですが、

「そんなの駄目だ駄目だ。仕事の上でできた縁なんだから、ちゃんと双方の職場に筋を通して披露する。それが大人のすることだ!」

とご立腹。どうも社長の腹の内は、この結婚をふたつの会社の間をつなぐパイプのひとつとしたいらしく、何が何でも披露宴を、と頑張り続けるのです。結局、F氏の社内の立場もあって、双方の社員を大量に招く披露宴を催すことに。

社長大注目の媒酌人も、F氏所属の部長夫妻にお願いすることが出来ました。万々歳と胸をなで下ろす社長を見ながら、いったい誰の披露宴なのかとはらわたが煮えくり返る思いのR子さん。こうして新婦一人を除いて丸く収まったのでした……。

新妻は産業スパイ?

「旦那さんは、何か言ってなかったか?」

結婚から4年。その後も勤務を続けていたR子さんに、社長や上司がこう質問してくる頻度が上がっていました。

というのも、安定関係と思われていたふたつの企業に、秋風が吹き始めていたのです。

そもそものきっかけは、R子さんの勤務先が持っていたある技術とそれを利用した商品開発でした。

実際の製造はR子さんの会社、しかし販売・製造名は知名度のあるF氏の会社という体制で、R子さんの会社は完全な黒子になることで、名より実を取っていました。

ところが、F氏の企業がその技術を自社のものとして買い取りたいと申し出たことから話はこじれ始めました。

R子さんの会社はそれを断り、今まで通りの下請けを希望。それに対してF氏の企業は強く出て、契約解除も辞さないという姿勢を打ち出してきたのです。

幸か不幸かこの技術、特許を取っていなかった上、ノウハウさえあれば他社でも作れる代物。しかも、それをいい事に、F氏の会社は他の下請けにもっと安く大量に作らせ、対抗手段に出るという噂まで立つ始末。

こうなると微妙になるのはR子さんの立場です。結婚以来、F氏の企業担当からははずれ、別の部署にいたものの、わらにもすがりたい上司や社長は、ことあるごとにR子さんをつつき、ヒントを得ようとします。

F氏は仕事上の話は家ではほとんどしないため、R子さんも答に窮します。その様子にジレるのか上司たちは

「R子さんからも一言いってくれないか。他ならぬ妻の言うことなら少しは聴いてもらえるんじゃないのか」

「夫婦仲はうまくいってるのか?うまくいってたら家庭に会話はあるはずだろう?」

と八つ当たりのような言葉で責めるのです。

確かに、会社の一大事ではあります。ただ、気持ちは分からなくないものの、こう度重なると

「私は産業スパイじゃない!」

とR子さんもキレてしまいそうになります。

実は、そんな事態と平行するように、R子さん夫婦の仲も雲行きが怪しくなっていたのです……。

家庭内不和と平行する企業間の不和。一足先に、R子さんの家庭が離婚の危機を迎えるのだが……。
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文・イラスト:
山本ちず

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