他人の失敗から学ぶ転職裏マニュアル 転職失敗談集3

FILE:021 ゆきとどいた福利厚生

海外への社員旅行や賄い付き社員寮が魅力のA社。その充実した福利厚生に引かれたTさんは、電話で問い合わせてみるが……。

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社員に還元

豪華な保養所に、社員旅行は豪勢に海外へ。毎月の手当も各種ドッサリ――。

バブルの頃なら珍しくない話ですが、こうしたゼイタクが仇となって消えていった企業がどれほどあったことでしょう。長い不景気の時代を抜け、福利厚生は豪華でなくとも、「堅実に最低限の待遇を」、こんな会社が一般的なようです。

そんな中で「海外への社員旅行実施、賄い付き独身社員寮あり」という企業に目を止めたのが、現在求職中のTさん。

その会社というのが、輸入品販売業のA社。求人広告には、社員が社屋の前に出てありったけの笑顔を振りまいている写真が使われていました。

まずは問い合わせだけでも、と電話をかけてみたところ、

「広告を見て……ああ、社員募集ですね。少々お待ち下さーい。………えっと、いつにされます?」

「は?」

「いや、ですからぁ、面接の日です。いつがご都合よろしいですかー?」

電話に出た若い女性の声は、Tさんの気持ちなどおかまいなし、流れ作業で面接日程を決めようとします。

「あの、募集要項についていくつか聞きたいこともあるんですが……」

「そういうこともー、こちらじゃわからないのでー、面接で聞いてくださいますかぁ?」

立て板に水で聞く耳持たず。どうやら本当に電話番だけをしている、アルバイトのようです。

やむなく、A社に応募して話を聞くことになりました。

面接に出かけると、出てきたのは社長本人。まだ若い社長で、会社の重要事項はなにもかも一人で決めているといった感じです。

「お願いしたい仕事は営業ですね。ノルマはあるので、正直キツいかもしれない。実際それが耐えられない人もいる。でも、その分うちは社員が財産だと思っています」

仕事は訪問販売を含む営業で、ノルマありきの歩合制。その厳しさを社長は否定しません。ただ、一方で一番聞きたかった、手厚い福利厚生の理由を仕事にからめて語ります。

「だからこそ、僕はできるだけ社員の目に見える形で還元したいと思っているんですよ。社員旅行は毎年実施してます。海外旅行ですよ?他にも福利厚生も充実していますし」

止める友人

社長はTさんが独身だと知るやいなや、社員寮の説明をはじめます。

「うちは、勤務地がどこになろうと、ちゃんと寮を用意します。朝と夜の食事も出します。仕事で遅くなって、食事するところがないときも、うちの場合は寮に帰ればちゃんと温かい食事が食べられます。共益費と賄い料はいただきますが、家賃はタダ。どうです?」

家賃はタダ――。

都会の家賃、特に敷金の高さに引越しもできないと、不便なアパートに暮らし続けていたTさんは、思わずこの言葉に酔わされてしまったのです。

社長から「あなたさえよければ、すぐにでも来てほしい」と熱心なオファーをもらい、Tさんは話を聞くだけのつもりから、トントン拍子で入社まで決めて帰ってきたのでした。

面接から戻ったTさんは、興奮気味で

「俺、転職するんだ!」

と周囲に触れ回りました。

「どんな会社?どんな仕事なの?」

こう質問する友人たちに、面接で見聞きした話を繰り返すTさん。しかし反応は、

「輸入品販売?そこの商品って、何がメインなの?聞いたことないよ」

「しかも訪問販売がメインだろ?それってキツいよ。最近は個人情報にうるさいから、下手したら追い返されるぞ」

「ノルマきついって、社長が自分で言うぐらいなんだから、辞める社員も多そうだし……え?歩合制?マズイよ、ゼッタイ」

などと、惨憺たる有様。全員そろって、やめろやめろの大合唱です。

そうなるとムキになるTさん、

「でも、家賃タダだぜ、タダ!その分給料増えるのと同じじゃんか!」

たとえ歩合制で収入が減っても、住んで食べるところが確保できていれば安心感が違うと力説し、入社の日を迎えたのでした。

友人の反対を押し切りA社に転職したTさん。評判通り厳しいノルマに苦しむことになるが、それ以上にTさんを悩ませたものは……。
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文・イラスト:
山本ちず

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