他人の失敗から学ぶ転職裏マニュアル 転職失敗談集3

FILE:022 ゆきとどいた福利厚生

家賃タダの魅力にとりつかれ、厳しいノルマのあるA社に転職したTさん。しかし、入社半年後には行方をくらまして……。

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途絶える足取り

軒並み友人が反対したA社に、「寮費タダ」に引かれて転職を決めたTさん。

「引越しの世話までしてくれる!」

とまさに大喜びで、A社が差し回したトラックに乗り、意気揚々と去っていきました。

それから3ヵ月の間、友人のところにTさんから頻繁にメールが入るようになりました。そのほとんどが、

「仕事がキツイ」

などの電報ほどの短文。どうやら忙しい仕事の合間に送信している模様。

まとまった休憩さえもらえないのか、友人たちがどんなに質問を返しても、

「今、仕事、休めない」

とか、

「土日も出勤」

程度のメールしか返ってきません。友人たちとの集まりにもすっかりご無沙汰になったTさんに、

「やっぱり忙しいんだよ」

と、みんな心配しながらもどこか納得した様子でした。

ところが、この電報並みのメールでも、細々と届いていた頃はまだ良かったのです。入社から半年後を境に、Tさんとパッタリ連絡が取れなくなってしまいます。

メールを打っても返事はなく、携帯にかけても

「電波の届かないところにおられるか、電源を切っているため……」

というメッセージが繰り返されるだけ。しかし、ほどなく

「T、今長野にいるらしいぞ!」

今までの友達とは縁切りなのかと思いかけたころ、仲間の1人がTさんからのSOSをキャッチします。

「やっと長文が打てるようになった」

で始まるメールは、想像を絶するTさんの会社生活が綴られていました。

家賃がタダの寮とは古いワンルームマンション。ただし、同じ建物の一室が会社事務所にあてられていました。

「通勤時間0分、便利だろう?」

と社長は言いましたが、便利どころか私生活もゼロの生活。会社と同じ建物にいる社員は、睡眠と食事時間以外は仕事に追い立てられ、私用の外出もままならない有様だったのです。

賄い付きで「温かい食事が食べられる」というふれこみも、実態は仕出し弁当を実費で取ってもらえる程度。豪華海外旅行は、成績トップの営業マン1人だけに与えられるものでした。

毎日の仕事は、2人1組で外回り。これが朝から晩まで続き、深夜は会社で残業。終始誰かと一緒なので、携帯をかけて友達に愚痴ることもできません。トイレ休憩などの間にようやく送るメールは、当然短文になりがちです。

しかし、これでもまだ地元にいられたうちはマシでした……。

軟禁寮

入社から半年経ったとき、Tさんに辞令がおり、長野に期限付き出向になってしまったのです。社長は、

「転勤先の住居も用意する」

という約束だけは守ってくれました。ただ、用意された“寮”は、さらに驚きの環境だったのです。

掘建て小屋に近い建物にベッドが入っただけの雑居生活。もちろん、風呂トイレは共同。

それでは色々と不便だということで、トタン板で区切った休憩ルームを一角に作り、従業員たちは時間を決めて交代でテレビやDVDを見たり、タバコを吸ったり、メールをしたりするのです。

幸い長野での勤務時間は、本社を離れている気楽さもあって以前ほどの長時間ではなく、Tさんは深夜の休憩ルームで、ようやく友人にメールをするチャンスを得ます。

「話が違いすぎる。もう限界。逃げるから助けてくれ!」

「逃げるって……辞められないの?」

「無理。言っても聞いてくれない。だからみんな逃げてる

長野事務所の従業員は文字通り夜逃げ同然で辞める者が多く、1人ぐらい減っても目立たないというのです。

「足がない。山奥だから助けにきてくれないと」

そう繰り返すTさんに同情した友人たちは、車を一路長野に走らせ、夜陰にまぎれて寮を逃れたTさんをキャッチ。無事脱走に成功したのでした。

しかし!その後が大変でした。期限付きの出向ということで、最低限の日用品だけ持って長野で暮らしていたTさんは、生活雑貨の大半を本社のあるマンションの一室に置いたままだったのです。

取り戻しにいこうにも、出向先から遁走した上、退職届は上司にメールで送りっぱなし。

このように、経緯が経緯なものですから、正面切って引越しを申し込んでも、

「ここは当社社員以外立入禁止。すでにうちを辞めた人間はもう部外者だ」

と、『勝手に逃げておいて、何を言う!』といわんばかりの態度で突っぱねられ、マンションに入れてもらえないのです。

そんな状況を聞きつけ、脱走劇以降興奮気味の友人たちは、

「今度は荷物か?よし、腕力のあるヤツを集めて取り返しにいくぞ!」

とやたらひと暴れしたがっていましたが、さすがに玄関でもみ合いになって警察のお世話になるのも厄介で、しかも荷物がどう扱われるかも心配です。

結局、Tさんは関係窓口に相談。労務関係に明るい人物を介して粘り強く交渉し、穏便に荷物を取り返しました。さすがに顔を合わせるのも気まずいと、運び出しに引越業者を使ったり、逃亡の月の給与をあきらめたりして、予想外に財布が痛んだということです。

転職サクセスワンポイント講座

今回はココが問題!

辞意表明の手段

退職交渉はまず口頭、それが決定してから文書が基本。ただし、どうしても上司が話を聞いてくれない、辞めさせてくれないという場合が問題です。法律の上では、退職届の提出から2週間経過すれば辞めることができますが、話し合いでの退職を目指すのであれば、送信メールを記録するなどし、交渉材料のひとつにしましょう。

これでサクセス!

退職理由

退職時にトラブルを起こしている場合、転職時にそこにどう触れるかというのが問題になってきます。雇用側は退職理由を気にするものです。

今回のようにトラブルになった場合でも、ことさらマイナス点を誇張することはありません。会社と交渉した事実があれば必ず伝え、その上で「雇用条件と実態にズレがあった。自分が納得した上で仕事にあたれなかった」など、嘘にならない範囲で、自分の気持ちを主軸にして表現する程度でよいでしょう。

文・イラスト:
山本ちず

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